いもち病  Pyricularia oryzae

T.育苗期

〈生態と防除のねらい〉

 いもち病菌の生育及び分生子形成適温は28℃前後、発病の最適温度は25℃で乾燥に強い。
 苗いもちは主に種子伝染によると考えられ、箱育苗では播種後10日頃より萎凋、褐変枯死する。罹病籾や発病苗上に形成された分生子が、箱内感染源となって葉いもちの発病の一因となる。
 葉いもちは主に育苗後期に発生し、はじめ灰色の小斑点を生ずるが、密播のため急速に病勢が進展し、ズリコミ症状になることがある。
 重症籾は塩水選で除去できるが、正常に稔実した籾でも保菌している場合があり、特に穂いもち多発ほ場の籾では保菌率が高い。さらに箱育苗では育苗期間が短いため、育苗期には病徴が認められないにもかかわらず、移植後に発病する場合があることから、薬剤による種子消毒の徹底が重要である。

〈耕種的防除法〉

 1.耐病性品種を選ぶ。
 2.無病種子を用いる。
 3.厚播にならないようにする。
 4.覆土を完全にする。(籾に形成された胞子の地上部への飛散を防ぐ)
 5.塩水選を必ず行う。
 6.移植は遅れないようにする。(過繁茂、軟弱苗は葉いもちの発病をまねきやすい)

〈薬剤防除法〉

 1.種子消毒(水稲の農薬一覧表参照)
 2.発生を認めたら直ちに薬剤を散布する。



U.本田期

〈生態と防除のねらい〉

 育苗期から成熟期まで発生する。発病部位によって名称がつけられており、育苗中〜後期及び分げつ期の葉いもち、出穂後の穂いもち(首いもち、枝梗いもち、みごいもち、籾いもち)、節いもちなどがある。
 第1次伝染源は罹病籾である。かつてわら細工が行われていた時代には加工のためにわらが乾燥状態で保存され、また、わらが水田跡に積まれており、これが重要な伝染源となっていた。しかし、現在の主な伝染源は、罹病苗の持ち込み、放置された補植用苗及び隣接する発生圃場からの胞子の飛び込みである。
 発生誘因としては気象要因が大きく、夏季の低温、多雨、日照不足は多発生の原因となる。このほか窒素過多も多発生の原因となる。いもち病菌は菌糸の発育適温が25℃と低いこと、多湿の場合は胞子形成が盛んになること、日照不足や窒素過多では稲体が罹病しやすくなることなどがその理由である。
 葉いもちの病斑には褐点型、褐色紡錘形で中央部に灰白色の崩壊部の病斑を持つ停滞型(慢性型)、一般に楕円形で周縁が不鮮明な灰緑色を呈した進行型(急性型)がある。進行型は、胞子形成量が多いため蔓延する危険度が最も大きく、停滞型も、胞子形成量は少ないが二次伝染源となり得るのでいずれも注意を要する。特に若いイネに多発生すると病原菌の出す毒素で萎縮、分げつ異常をおこし、後に枯死する、いわゆる「ズリコミ」症状を呈する。稲葉のいもち病に対する感受性は葉身展開後3〜4日までが高い。
 穂いもちの伝染源は、主に出穂25〜35日前以降に形成された葉いもちの病斑であり、穂いもちの発生は葉いもちの発生量と関係が深い。出穂直後に発生した籾いもちの病斑は胞子形成能力が高く、葉いもち病斑とともに枝梗いもちの重要な発生源となる。
 早期水稲栽培では、分げつ期〜出穂期がちょうど梅雨時期に重なるので、低温で降水量が多く経過する年には、多発の可能性がある。
 宿主の品種はそれぞれ抵抗性遺伝子を持っており、またこれに対して本病原菌にはそれぞれの抵抗性遺伝子(品種)を侵し得る菌系統(レース)がある。したがって特定の抵抗性遺伝子型(真性抵抗性)を持つ品種の作付面積が拡大すれば、やがてそれを侵し得るレースが多発するようになり、抵抗性は崩壊する。
 防除のねらいは、抵抗性品種(特にほ場抵抗性の高い品種)の選択と施肥基準に基づく肥培管理につとめることであるが、本田に罹病苗を持ち込まないことが大切である。従って育苗期の防除は重要で、また補植用苗の除去は早めに行わなければならない。
 葉いもちに対する薬剤防除は発生初期ほど効果が高い。穂及び節いもちは出穂前後に、あくまでも予防的に防除しないと効果がない。また、降雨が続き、粉剤や液剤の散布が困難な場合は、粒剤で早めの対応を行う。

〈耕種的防除法〉

 1.耐病性品種を選ぶ。
 2.無病種子を用いる。
 3.発病苗を移植しない。
 4.補植用苗は早めに除去する。
 5.施肥基準を守り、窒素肥料、緑肥及び穂肥の過用は行わない。
 6.冷水潅漑を避ける。
 7.罹病わらは伝染源となるが、収穫後、早期にわらを埋没すれば、菌は4カ月程度で死滅する。または、焼却するのもよい。

〈薬剤防除法〉  

 1.葉いもちは発生初期ほど効果は高いが、散布時期が遅れるほど効果は低く なる。
 2.穂いもちは直接収量に影響するので、予防散布が重要である。穂いもち常発地(毎年ほぼ病穂率15%以上発生が認められる)では出穂直前と穂ぞろい期 の2回、他の地帯では出穂直前の1回散布を基本防除とする。後期発病の予 想される年には回数を増す。常発地や降雨が続き地上散布が困難と思われる 場合は、早めに粒剤の施用を行う。

〈被害解析〉 

1.発生と減収率については指導資料参照

〈写真〉


葉いもちの病斑(停滞型)


葉いもちの病斑(進行型)

葉いもちのずり込み症状

穂いもち(穂首いもち)


分生胞子

苗いもち
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