穂枯れ 

 穂枯れとは「水稲の登熟期において、いもち病菌を除く他の病原菌類によって穂が侵され、汚染、変色、枯死などの症状を示し、穂の各部には多くの場合、a淡褐〜黒褐色の病変部などがみられ、次第に穂枯れ様相を示すようになる」症状をいう。主な病原菌はごま葉枯病菌、褐色葉枯病菌、すじ葉枯病菌及び小粒菌核病菌の4種で、いもち病とともに混発することが多く、特に米の品質を低下させる。


(1)ごま葉枯病  Cochliobolus miyabeanus

T.育苗期

〈生態と防除のねらい〉

 罹病種子が主な伝染源である。出芽直後からしょう葉・葉鞘が褐変し、葉には黒色短線状の病斑を形成し、この部分から出すくみやねじれが生じるが、本田期で見られるような黒褐色楕円形の病斑は現れない。発病が激しい場合は苗全体が褐変し、いわゆる「葉焼け」となる。本菌の生育適温は27〜30℃であるが、低温・乾燥条件下でも長期間生存できる。

〈耕種的防除法〉

 1.無病種子を用いる。
 2.育苗期間中に肥料切れしないように管理する。

〈薬剤防除法〉

 種子消毒(水稲の農薬一覧表参照)



U.本田期

〈生態と防除のねらい〉

 本菌は、低温・乾燥に強く、箱育苗では容易に種子伝染もするが、本田での発生が田植より1カ月以上遅れることから、本田における発生は、前年の被害わらが主な伝染源と考えられている。また本菌は、畦畔のサヤヌカグサなどのイネ科雑草に広い寄生範囲を持っていることも報告されているが、いずれも伝染環は明らかではない。
 主に葉に発生し、下葉から上位葉へ黒褐色楕円形斑点で、周辺が黄色のかさで囲まれた病斑を生じる。病斑は拡大すると灰褐色の大型病斑となり、分生子を形成して二次伝染源となる。穂首、枝梗、籾及び節にも発生するが、発生時期が遅く(出穂2〜3週間後)、白穂にならずある程度稔実するので、青米や茶米が多くなる。
 一般に穂ばらみ期から発生が認められ、特に出穂期以降の発生は穂枯れの原因となる。穂の栄養状態が悪い場合に発生しやすく、砂質土、泥炭地及びアルカリ質土壌、耕土の浅い水田、排水の悪い水田などの秋落田に多い。
 出穂期以降登熟後期までの高温、多湿は、イネ体の老化(特に窒素代謝の凋落が急速に進んで抵抗力が低下)と、病原菌の活動(生育適温27〜30℃)を促すので多発生となる。  
 穂の発病は、穂いもちとの混合発生が多いので、いもち病との同時防除が実用的である。

〈耕種的防除法〉

 いずれも排水不良田や不適切な施肥などで発生が多くなるので、栽培基準 及び施肥基準に基づいた土壌改善及び施肥を行う。

〈薬剤防除法〉

 穂いもちと同時防除を行う。


〈写真〉


葉の病斑

多発ほ場

分生胞子




(2)褐色葉枯病  Monographella albescens

〈生態と防除のねらい〉

 本菌の生育最適温度は24〜27℃、菌の侵入・感染には水滴が必要であるが低温・乾燥条件に強く、前年の被害茎葉が主な伝染源と考えられている。また本菌は、畦畔のサヤヌカグサなどのイネ科雑草に広い寄生範囲を持っていること、冠水後に多発生する事例があること、白葉枯病と混発することが多いことなどから、イネ科雑草が伝染源とも考えられるが、伝染環は明らかではない。
 出穂期ごろから急に発生が目立つようになる。葉、葉鞘、みご及び穂を侵す。葉では、ごま葉枯病に類似した褐色斑点病斑または葉先や葉縁から灰褐色部と暗褐色部が交互に重なって波状に発達し、大型の雲形あるいは雲紋状病斑を形成し、葉先枯症状を呈する。葉鞘及び穂では紫褐色の病斑を形成し、葉鞘全体に拡大する。穂では最初籾に、後に枝梗及びみごに発生し、稔実不良や変色米の原因となるが、他の病原菌による変色米と区別は困難である。
 夏期の冷涼、高湿、多雨と窒素過多は発生を助長し、また品種によっても発生が異なる。
  

〈耕種的防除法〉

 排水不良田や不適切な施肥などで発生が多くなるので、栽培基準及び施肥 基準に基づいた土壌改善及び施肥を行う。

〈薬剤防除法〉

 穂いもちと同時防除を行う。



(3)小粒菌核病

  小黒菌核病菌  Helminthosporium sigmoideum
  小球菌核病菌  Magnaporthe salvinii

〈生態と防除のねらい〉

 小黒菌核病と小球菌核病は、病徴及び発生生態が類似し、混発することが多いため、併せて小粒菌核病と称しているが、主体は小黒菌核病菌である。小黒菌核病は葉鞘、稈、葉、みご、穂軸に発病するが、小球菌核病は葉鞘及び稈のみに発生する。また、葉鞘及び稈の中に形成される菌核は、いずれも黒色であるが、小黒菌核病では光沢がなく不正形で、小球菌核病では光沢があり正球形で小黒菌核病よりやや大きい点で区別できる。
 第一次伝染源は、切株内や土壌上で越冬した菌核で、翌年の代かき時に水面に浮上し、イネ株元へ付着後、気温の上昇とともに発芽・侵入する。最初、水際の葉鞘や稈に黒褐色で周縁不鮮明な不正型、中に黒色条線がある病斑を生じ、さらに稈内部に黒色の菌核を形成する。出穂後、イネの病斑上に形成される分生子の増加とイネの抵抗力の低下で、最も罹病性であるみごに発生した後、葉、止葉葉鞘、穂軸に同様の病斑や菌核が形成され、穂枯れの原因となる。
 本菌の生育適温は25〜30℃で、分生子の発芽・菌の侵入には水滴が必要なので、出穂期以降の高温多雨や、低湿地帯、倒伏したイネで発生が多い。

〈耕種的防除法〉

 排水不良田や不適切な施肥などで発生が多くなるので、栽培基準及び施肥 基準に基づいた土壌改善及び施肥を行う。

〈薬剤防除法〉

 穂いもちと同時防除を行う。



(4)すじ葉枯病  Sphaerulina oryzina

〈生態と防除のねらい〉

 葉、葉鞘、穂などあらゆる部分を侵す。病斑は、紫褐色で周縁の不鮮明な条斑が特徴である。
 種子伝染も行うが、主な第一次伝染源は、被害わら上に形成された分生子及び子のう胞子で、5月〜7月に飛散し伝染する。潜伏期間が長く、発病までに約1カ月を要するため、早期栽培では7月中旬、普通期栽培では8月上旬から発病が認められる。イネ葉の病斑はさらに分生子を形成し、飛散して2次伝染源となる。
 イネの抵抗力は登熟中後期以降低下し、本菌の生育適温は25〜28℃なので、早植えするほど感染・発病の適温期間が長くなり、発病が助長されると考えられている。  
 漏水の激しい秋落田で発生が多く、りん酸とカリ欠乏及び窒素多用で発病は助長される。

〈耕種的防除法〉

 排水不良田や不適切な施肥などで発生が多くなるので、栽培基準及び施肥基準に基づいた土壌改善及び施肥を行う。

〈薬剤防除法〉

 穂いもちと同時防除を行う。


葉の病斑