ヒメトビウンカ 

〈生態と防除のねらい〉

 西南暖地では、縞葉枯病、黒すじ萎縮病の媒介虫として重要である。年間4〜5世代を経過し、幼虫態で越冬する。越冬は畦、草地、休閑田等の日当りが良く、乾燥しやすい枯死雑草下や稲わら下などで行われる。越冬世代成虫は3月中旬頃から現れ、4月上〜中旬に最盛期となる。越冬世代成虫は長翅型率が比較的低いので、越冬地近くのイネ科植物(小麦、イタリアンライグラス、エノコログサなど)に移動し、産卵・発育するが、早期水稲への侵入量は少ない。第1世代成虫は5月中旬頃から出現するが、その最盛期は6月上〜中旬である。第1世代成虫は長翅型率が高く、活発に移動分散し、水田へも侵入するが、特に、早期、早植水稲では侵入量が多くなる。続く第2世代成虫は7月中旬頃に増加してくる。卵は葉鞘の組織内に産み込まれ、25℃では卵期間8〜9日、幼虫期間15日間を経て成虫になる。
 ウイルス病媒介虫(特に縞葉枯病)としての防除対策を考えると、縮葉枯病の感染期は移植後から12葉期頃までで、それ以降は感染しても発病しにくくなる。従って、早期水稲では6月〜7月上旬の第1世代成虫と第2世代幼虫、普通期水稲では6月下旬〜8月前半の第1世代成虫〜第3世代幼虫までの防除が必要である。
 縞葉枯病ウイルスは主に保毒幼虫体内で越冬し、翌年の伝染源となる。本病ウイルスは経卵伝染するので、本田侵入前の保毒虫密度を低下させることが第1に重要である。そのためには、冬期〜春期に水田内や水田周辺のイネ科雑草を防除する。第2に本田侵入後の増殖防止対策として、移植前の育苗箱施薬や感染期の本田防除を行う。ただし、水田への侵入は、主に5月末以降の第1世代成虫から始まるので、早期水稲では本田期防除を中心とする。早期、早植水稲では、普通期水稲に比べて侵入成虫数が多くなるので、特にウイルス病対策が必要となる。第3に立毛中の発病株や再生稲の発病株はウイルス吸汁獲得源となるので、保毒虫率低下のために、これらのウイルス獲得源を減少させることも重要である。

〈耕種的防除法〉

 1.越冬世代成虫出現前に水田、休耕田を耕起し、寄生植物となるイネ科雑草を枯死させる。また、畦畔や裏作栽培ほ場の雑草を防除する。
 2.罹病株を抜き取る。
 3.イネ収穫後は速やかにほ場を耕起し、再生稲の発病株を枯死させる。特に早期水稲では再生株での発病株率が高いので収穫後のほ場耕起を必ず行う。

〈薬剤防除法〉

 1.育苗箱施薬
  施薬量が不足すると残効期間が短くなるので、1箱当たりの施薬量を厳守する。
 2.本田期防除
 (1) 早期水稲では4〜5月の侵入量は少ないので本田防除を中心とする。
 (2) 防除時期は早期水稲では6月中〜下旬、普通期水稲では7月中旬頃である。

〈参考資料〉

  温度別発育期間については1994年版付属資料参照(P.268)。

〈写真〉


ヒメトビウンカ成虫♂

ヒメトビウンカ成虫♂

ヒメトビウンカ成虫♀

ヒメトビウンカ成虫♀