トビイロウンカ 

〈生態と防除のねらい〉

 休眠性がなく国内では越冬できない。主に6〜7月中旬の梅雨期に海外から数回にわたって飛来してくる長翅型成虫が発生源となる。飛来密度は、同じく海外飛来性のセジロウンカに比べてかなり低い。
 飛来後、雌成虫は約4日間の産卵前期間を経てイネ葉鞘の組織内に産卵する。セジロウンカのような産卵痕は発生しない。総産卵数は1雌当たり400〜500卵である。25℃では卵期間9日、幼虫期間14日をへて次世代(第1世代)成虫となる。第1世代の雌成虫は増殖率の高い短翅型となることが多い。短翅型雌はあまり移動せず、産卵数も多いため、第2世代個体群は局部的に、しかも幾何級数的に密度が高くなる。したがって、短翅型雌率(短翅型雌個体数の雌個体数に占める割合)は飛来後の密度増加を予察する上で重要な指標となる。短翅型雌率は飛来密度や、イネの生育ステージなどの影響を受け、年変動がある。この比率が80%以上の年には密度が高くなることが予測される。
 トビイロウンカの防除対策は吸汁害防止を第1とする。すなわち秋期に高密度となってイネを吸汁し枯死・倒伏させる被害、いわゆる「坪枯れ」の防止を第1の目標とする。しかし、高密度に寄生している場合は坪枯れがなくても稔実が極度に悪くなり、品質低下や収量減の原因となるので防除は適確に行う必要がある。
 坪枯れの発生時期は普通期水稲では通常主要飛来(最多飛来)個体群の第3世代に当たる9月中〜下旬である。しかし、多飛来年には早期、早植水稲で飛来後2世代目の8月中〜下旬に坪枯れが発生することがある。
 薬剤による殺卵効果は期待できないので坪枯れ発生の前世代、つまり主要飛来個体群の第2世代幼虫期の防除が重要である。早期、早植水稲では飛来量や定着後の発生が多く、第2世代で被害が発生することがあるので第1世代幼虫期の防除を行う。なお、多発年には齢が乱れて防除後もふ化幼虫が増加することが多いので、早期、早植栽培では第2世代の、普通期栽培では第3世代の若齢幼虫期に補正防除を準備する。

〈薬剤防除法〉

 1.要防除水準(中老齢幼虫合計値で示す)。
  飛来後第1世代:100株当たり     20頭以上
  飛来後第2世代:100株当たり     100頭以上
  9月末      :100株当たり    1,000頭以上
  指導資料参照。
 2.育苗箱施薬
  施薬量が不足すると残効期間が短くなるので、1箱当たりの施薬量を厳守する。
 3.本田期防除
 (1) 防除時期は第1世代が主要飛来期から約25日目、第2世代がその後約25日である。
 (2) 本種は株元に生息しているので、生育後期の散布では株元に薬剤が到達するように留意する。
 (3) 一部の有機りん系単剤(ダイアジノン、マラソン)については感受性が低下しているので単剤としては使用しない。

〈参考資料〉

 1.本種はウイルス病(褐穂黄化病、別名グラッシースタント)を媒介するが発生、被害とも問題になっていない。なお、1991年版参照(P.83)。
 2.温度別発育期間については付属資料参照。
 3.発育ステージ推定のための発生パターン図については付属資料参照。

〈写真〉


成虫

幼虫

短翅型成虫

成虫


坪枯れほ場