1.センチュウ類

 国内で寄生が認められているセンチュウ類は、次のとおりである。
○ネコブセンチュウ
 (サツマイモネコブセンチュウ、ジャワネコブセンチュウ、アレナリアネコプセンチュウ、キタネコ  ブセンチュウ)
○ネグサレセンチュウ
 (ミナミネグサレセンチュウ、チャネグサレセンチュウ、キタネグサレセンチュウ、クルミネグサ   レセンチュウ)
○ハガレセンチュウ(ハセンチュウ、ハガレセンチュウ)
○クキセンチュウ
○イシュクセンチュウ
○シストセンチュウ
○ラセンセンチュウ
○ユミハリセンチュウ
○ハリセンチュウ
○ピンセンチュウ
○ワセンチュウ、サヤワセンチュウ

1.生態

(1)ネコブセンチュウ
 ネコブセンチュウには幾つかの種類があるが、九州に多いのはサツマイモネコブセンチュウ、ジャワネコブセンチュウで、一部キタネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウなども加害する。いずれも広食性で寄生作物が多い。冬は、卵や植物の根に寄生した成・幼虫ですごし、地温10℃以上になると活動をはじめ、1世代は夏で25〜30日聞くらい、卵は15℃以上でふ化し、年間数世代を経過する。卵からふ化した幼虫は、土中を移動して根の生長点付近から根の中に侵入して定着し、口針からある種の汁液を出しコブを作る。極めて多くの植物を害し、花きでは、キク、アスター、ガーベラ、ダリア、カーネーション、ストック、スイセン、スイートピー、シャクヤク、グラジオラス、ケイトウ、リンドウ、キク科、花木では、モモ、ヤナギ、アカシヤ、ナンテン、ウメ、サクラ、バラ、ツバキ、サザンカ、クレマチスなどに被害が多い。

(2)ネグサレセンチュウ
 ネグサレセンチュウにも多くの種類があり、九州に多いのは、ミナミネグサレセンチュウで、この他キタネグサレセンチュウ、クルミネグサレセンチュウやモロコシネグサレセンチュウなどが加害する。成・幼虫、卵いずれの形でも越冬し、地温15℃前後から活動を始める。生活はほとんど土壌温度と湿度に左右され、高温多湿になるほど経過が早まり、好条件下では1世代25〜35日間と推定される。産卵は、根の組織内に行い、ふ化幼虫は根の中を加害移動しながら成虫となるが、根が腐敗したり、条件が悪くなると一旦組織外に出て、つぎつぎと新しい寄主を求め、根を腐敗させる。花きでは、キク、ダリア、ガーベラ、ユリ、センニチコウ、スミレ、ストック、スイセン、グラジオラス、アプラナ科、花木では、モモ、サクラ、バラ、カナメモチ、スイリュウ、ツバキ、サザンカ、ゴム、カエデ、マツ、ニレ、ヒノキ、その他樹木及びシバなどに被害が多い。

(3)ハガレセンチュウ
 ハセンチュウ、ハガレセンチュウがあり、種類としては5〜6種知られている。葉の組織中に生存し、養分を吸収して葉を枯死させる。産卵も葉の中で行われ、地上に落ちた被害葉が伝染源となる。枯死した被害葉中のセンチュウは、休眠状態で数年間も生存しており、水分を得れば活動をはじめ、水中を泳いで植物体に達し、水の膜を伝って上昇、葉の気孔から組織細胞内に入る。ハセンチュウの被害の多いのは、ベゴニア、グロキシニア、スミレ、ポタン、シャクヤク、キクノハガレセンチュウの被害の多いのは、キク、グロキシニア、この他カノコユリハガレセンチュウは、カノコユリを加害し、他にスイセン、フロックス、アイリスなどに加害するものがある。

(4)クキセンチュウ
 いくつかの生態型が知られ、土中又は球根中で生活しており、寄主があればその気孔から侵入し、組織内を移動する。虫体からある種の物質を出すのでその刺激によって組織が異常にふくれたり、腐ったりする。不良環境では抵抗性が非常に強く、枯死した植物体内や土中で3〜4年
も休眠状態で過ごし、乾燥した条件では20年間も生存した例がある。
花きでは、ヒアシンス、スイセン、チューリップ、アイリスなどの被害が知られて
いる。

(5)イシュクセンチュウ
 植物をいじけさせるセンチュウとして知られ、日本でも広く分布している。外部寄生性のセンチュウで移住性である。ふだんは土中に生息し、根の外から栄養を吸収する。またフザリウムなどの土壌病害を伝染させ立枯病の発生を促進することが知られている。キクやツツジ、その他スギ、ヒノキ、マツなどの樹木の被害が多い。

(6)シストセンチュウ(サボテンシストセンチュウ)
 卵は、土壌中のシストの中で越冬し、これからふ化した幼虫は、根に到達し、中に入って成長、3回の脱皮を経て成虫となる。雌は、頭部を根の組織中に入れ、ぶらさがっているが、雄は、のちに土壌中に出て自由生活に入る。1世代は夏で約1カ月間、年間2〜3世代の経過と思われる。近年、サボテンでの被害が出始めた。

(7)ラセンセンチュウ
 代表的な外部寄生性センチュウで移住性である。寄生植物は、草本、木本なと極めて多く、ふだんは土中に生息して外部から栄養を吸収し、大きな被害を与える。ツバキ、サザンカ、ヤシ、ゴム、シバなどに被害がある。

(8)ユミハリセンチュウ、ハリセンチュウ
 ハリセンチュウはかなり大型で、ユミハリセンチュウも大型に属する。他のセンチュウ同様外部寄生性で移住性をもっている。根の外部から栄養を吸収して弱らせる。ユミハリセンチュウはTRV(タバコ茎えそウイルス)を、オオガタハリセンチュウは、TomRSV(トマト輪点ウイルス)を伝搬する。ユリ、キク、モモ、バラ、ツツジ、マツ、シバなどに被害がある。

(9)ピンセンチュウ
 ピンセンチュウによる作物の被害は意外に大きいと考えられ、外部寄生性である。キク、カーネーション、モモ、ウメ、サクラ、シバなどの被害が報告されている。

(10)ワセンチュウ、サヤワセンチュウ
 外部寄生性で各地からシバの被害が報告されている。

2.防除のねらい

(1)一般に連作すると密度が高くなるので、作物を選び輪作を行う。特に水田化し潅水すると
  死滅が早まるので、効果が高い。
(2)堆肥など粗大有機物を多用すると有用センチュウ、土壌菌が増加し、有害センチュウの
  抑制効果が高いばかりでなく作物の生育もおう盛となって抵抗性が増す。
(3)ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、イシュクセンチュウその他の土壌センチュウに
  対しては、は種又は植付前の土壌消毒の効果が高い。
(4)ハガレセンチュウ:キク、ペコニア、グロキシニアなどの挿芽をとる際は、十分気を付けて
  り病株から挿穂をとらないようにする。 また、被害葉の中には多くのセンチュウがおり、
  伝染源となるので、放置することなく早目に集めて焼却する。なお、このセンチュウは、
  症状が発生した後では薬剤散布の効果があがらないので、防除は予防散布を重点とす
    る。
(5)ネグサレセンチュウ、クキセンチュウ、ネコプセンチュウなどセンチュウの移動は、土壌水
  などのほか、苗、球根などが重要である。したがって苗や球根は十分調査し、センチュウ
  の有無を確かめ、必要な場合は消毒を行って、絶対にほ場ヘセンチュウを持込まないよう
  にする  。
(6)植物寄生種の土中での繁殖を抑制するような化学的物質を含有する作物としてマリーゴ
  ールド、クロタラリア、ギニアグラス(品種ナツカゼなど)などの対抗作物の栽培を行うこと
  は有効である。

3.防除法

 土壌消毒の項参照

4.センチュウの分離法及び計数法

 土壌の採集は土壌の表層を除いて深さ5〜15cmから収集する。採集地点は作物の株元やうねからとする。採集後土壌を保存する場合は、ポリ袋に密封し、10℃前後で保存する。 土壌中の線虫密度を調査するにはベルマンろうと法が簡便である。植物組織内に寄生しているハガレセンチュウやネグサレセンチュウもこの方法で分離できる。
 ベルマンろうと法による分離手順を九州農試線虫研究室の方法(佐野、1985)により次に示す。
(1)土壌からの分離 手順:@ベルマン漏斗(径9cm)の下端にラベルしたガラスチュープ(管ビン:内径lcm)を付け、水を満たす。A十分混合したサンプル土壌から20gを計量し、和紙フィルター1枚を敷いた網皿に均等に拡げる。B漏斗に網皿をセットし、その下部が水によく浸るようにし、空気が残っていないか確認する。C朝夕水を補給しながら20〜30℃で72時間分離する。Dガラスチューブをはずし、線虫を計数調査する。E計数までの期間が10日前後なら10℃以下で保存、長期保存でホルマリンやTAFで固定し、封をして保存する。
(チューブ当り、5%ホルマリン、TAF数摘)



 注意事項:@で、漏斗とチューフの間に気泡が入らないよう注意する。Aの土壌量を多くすると(〜50g)、分離効率は低下していく。フィルターはモスリン布、ティッシュペーパーなとでもよいが、うすく丈夫で、規格のそろったものがよい。Bの網皿の底面積は統一する(手製の場合)。大型漏斗を用いる場合は、網皿も大きくする。Cの分離温度が20℃以下になると、線虫の運動能力が低下し、分離効率が低下する。土壌が低温、乾燥、酸素不足であったときは、線虫の活動力が低下しているので分離時問や分離温度に配慮する。低温期は分離前に土壌を25℃で3〜5日間保温すると活動力は回復する。Dで漏斗壁面に残っていてチューブまで達しない線虫がかなりあるが、これを含め計数すると分離効率が上がり、精度もよくなる。土壌重は含水量により変化するので分離に用いた標本土の土壌水分を測定しておく。一度、漏斗にセッ
トした標本土はいじらない。
 長所:簡使で技術を要しない。生きた個体のみが分離できる。
 短所:一般に分離率が低い。線虫の生理状態。土壌構造及び分離条件の影響を受けやすく、     分離効率が変化しやすい。また分離精度が低い。不活動の個体、種類は分離できな      い。大量の土壌を一きょに分離できない。
 TAF液の組成:蒸留水91cc、ホルマリン7cc、トリエタノールアミン2cc

(2)根内のネグサレセンチュウの分離
 手順:@よく水洗し、水を吸い取った根を約lcmに切断する。A和紙を敷いた網皿に一定量の根を広げ、ベルマン漏斗にセットする。G20℃以上で10日間分離する。注意事項:茎葉からの線虫分離にも適用できる。以上のようにして分離したセンチュウは生物顕微鏡で40〜60倍で次のように観察、計数する。
 分離した管ビンから、底に約0.4mlを残して静かに上部を吸引除去し、残液をピペットで吸引しスライドグラスに拡げる。顕微鏡の視野を順次動かしながら全体を計数する。    

5.写真

 
ラセンセンチュウ 全身イシュクセンチュウ
ネコブセンチュウによる被害根

 写真:福岡県園芸・茶病害虫図鑑より