9.アブラムシ類

 アブラムシ(俗にノダレ又はヨダレという)には多くの種類があり、ほとんどの植物に発生し加害する。1種のアプラムシが、数十種から数百種の植物に寄生(モモアカアブラムシ、ワタアブラムシなど)することもあり、また、1種の植物に十数種のアブラムシが寄生加害することもある。
植物の生育期間中に常に寄生加害されることが多く、ウィルス病が発生する植物は特にアブラムシ防除の重要性が高い。

1.生態と被害

 アブラムシの生活史は複雑であり、年問に多くの生活型(幹母、無翅胎生雌虫、有翅胎生雌虫、中間型胎生雌虫、両性雌虫)が現われる。しかし年間の大部分は胎生する雌虫で繁殖し、何回となく繁殖を繰り返すので増殖が著しい。越冬は卵態のものや胎生雌虫で行うものもある。寄主植物を季節的に変えるもの(移住型)が多いが、寄主を変えないもの(非移住型)もある。以上のようにアブラムシ類は、昆虫の中で最も複雑な生活史を繰返し、種類によってさまざまである。
 アブラムシは、植物体の各部位に寄生するが、主として新梢や新葉、花蕾などに群がり、汁液を吸収する。そのため葉が巻いたり虫えいができたり、萎ちょう枯死するなど害が大きい。また、排泄物にすす病菌が発生して外観を著しく損うなど生長阻害や品質低下が著しく、さらに吸汁加害時に各種の植物ウィルス病を媒介し伝染させるなど被害が大きい。
 

2.防除のねらい

 アブラムシ類はそれぞれ習性があって植物の生育初期に加害するものや生育の全期に加害するものなど、植物の種類や寄生するアブラムシの種類によって被害程度が異なるので、各々の特性に応じて防除の要否や防除法を決定する。
 (1)一般には発生初期に防除する。特にウメやモモなど巻葉するものは被害葉が回復しな
   いので、初期防除を徹底する。また、ウィルス病が発生する植物(ユリ、キクその他)で
   は媒介するアブラムシの発生に注意し、早期防除によって伝染を防止する。
 (2)防除は農薬だけに依存せずアブラムシの発生が少ない環境にすることが大切である。
   それには耐虫性品種を導入したり、堆肥、きゅう肥を施用して植物の生育をよくする。
   周辺の不用な寄生植物を除去する。経済性の高い植物やウィルス病にかかり易い植物
   には、シルバーポリフィルムのマルチや寒冷しやの被覆によって虫の寄生を少なくする。
 (3)天敵としてテントウムシ類、ヒラタアブ、クサカゲロウなとの捕食昆虫や寄生蜂がいるの
   で保護し利活用する。
 (4)有翅型アブラムシは黄色のものに誘引されるので、黄色水盤を設置して発生を予測す
   る。

3.防除法

 ・耕種的防除
  防除のねらい参照

 第3表 花きを加害するアブラムシ類 
 ○印は該当植物に主として寄生する種類         
種類名 種 名 主な寄主植物 備  考
キク ○キクヒメヒゲナガアブラムシ

 ワタアブラムシ
 モモアカアブラムシ
 キククギケアブラムシ
 キイロヒメヒゲナガアブラムシ
 ヨモギヒメヒゲナガアブラムシ
 タイワンクギケアブラムシ
 ゴボウクギケアブラムシ
 クロサワアブラムシ
キク(卵成虫)幼虫 ウイルス病
春から秋まで新芽、若葉、若いつぼみに赤褐色光沢のあるアブラムシが群生する。


ウイルス病
ウイルス病
秋に被害が多い。



カーネーション ○ワタアブラムシ

 モモアカアブラムシ
 ジャガイモヒゲナガアブラムシ







ムクゲ、クサギ、ザクロ(枝)(卵)
サクラ、モモ、ウメ、バラ等の芽や皮目(卵)、アブラナ科、マメ科(クローバーなど)
ベニバナゴボウ等
キク科



ウイルス病
5月頃夏寄生植物に来る
ウイルス病
花弁に多くつく 







ユリ ○ワタアブラムシ
○ニワトコアブラムシ
 オニユリフクレアブラムシ
 ジャガイモヒゲナガアブラムシ
 ニワトコフクレアブラムシ
  


ヤマユリ、オニユリ
コオニユリ
カノコユリ
ウイルス病
成長点付近、葉裏、若いつぼみにつく黒色のアブラムシ


アイリス チューリップネアブラムシ


モモアカアブラムシ
ジャーマンアイリスの株元



葉しょうや花苞の間に群生、枯れ上がり早く、すす病併発
ウイルス病
フリージア モモアカアブラムシ
ワタアブラムシ


チューリップ チュウーリップネアブラムシ
ジャガイモヒゲナガアブラムシ
チューリップヒゲナガアブラムシ
モモアカアブラムシ
ムギヒゲナガアブラムシ

ウイルス病
淡褐色で灰白色の紛状物でおおわれる。


グラジオラス ムギヒゲナガアブラムシ
ウイルス病
シクラメン ワタアブラムシ
モモアカアブラムシ
シクラメンコブアブラムシ

ウイルス病
   ”
花裏及び花梗につく
ストック モモアカアブラムシ
ダイコンアブラムシ
ニセダイコンアブラムシ


マーガレット ワタアブラムシ ムクゲ、クサギ、ザクロ等の枝に卵で越冬 新芽や葉つぼみに寄生
キンセンカ スモモオマルアブラムシ ウメやスモモにつき葉をちぢらせる 葉裏や新芽に春先から群生。すす病を併発する。
ワタアブラムシ
モモアカアブラムシ

キクの項参照

 第4表 花木類を加害するアブラムシ類
 ○印は該当植物に主として寄生する種類
種類名 種 名 備  考
マキ ○イヌマキアブラムシ
 マキアブラムシ
 マキシンハアブラムシ
新梢、葉に寄生、秋に両性メスが出現、卵越冬する。
マツ ○マツオオアブラムシ


○マツホソアブラムシ
 マツノハアブラムシ
 マツノカサアブラムシ

若枝に群生、葉黄変、枝の先枯れを起こす。すす病併発し、褐色を地色とした大形アブラムシで活動性大。
針葉を加害し、活動性大、コロニーを形成しない。


ゴヨウマツ、クロマツを加害、小枝の先、葉、芽の基部に寄生、肉眼では白色線様分泌物がつく。芽の生育止まり。枝は衰弱枯死することがある。
ヤナギ ○ヤナギオオアブラムシ
 (ヤナギコブオオアブラムシ)
○ヤナギアブラムシ
○ヤナギフタオアブラムシ

 ヤナギケアブラムシ
枝に群生する。

各種ヤナギの新梢に群生。
春葉裏に群生加害、夏はセリ、ミツバに移行する。ヤナギで卵越冬
葉裏に寄生。
ポプラ ドロケアブラムシ
エゾノコフキケアブラムシ
葉に寄生。
枝に密集加害する。
サクラ ○サクラコブアブラムシ

○サクラノフシアブラムシ


○オカボノアカアブラムシ


春若葉裏に群生、被害葉は捲縮し、紅色となる。夏にコモギに移行する。
春若葉に寄生、寄生部は表面に沿って膨大し、葉裏側に開口するガマ口様えいを形成、夏はヨモギの葉裏に移る。
ウメ、モモ等バラ科を主寄主とし、若葉及び新梢に群生、葉を捲縮させる。初夏イネ科の地下部につく。
ウメ  クワイクビレアブラムシ


○スモモオマルアブラムシ

○オカボノアカアブラムシ
 モモコフキアブラムシ
 モモアカアブラムシ

 ウメコブアブラムシ


 ヒヨドリバナオマルアブラムシ
春、モモ、スモモ、ウメ等の新梢、新芽に群生。夏はハス、クワイ、スイレン、ヒシ等につく。ウイルス病を媒介。
夏寄主不明(5月頃はいない)新芽の展開と共に葉裏に群がり捲縮させる。
サクラの項参照
モモ、スモモ等にもつく。主として成葉に寄生する。
モモ、スモモ等にもつく。新葉に寄生して捲縮させる。
春に若葉を加害して捲縮させる。被害枝は開花、結実不良、数年続くと枯死することもあり、夏は姿を消す。
冬〜春、ウメ、スモモ等の新梢につき葉を捲縮させる。夏ヒヨドリバナ、フジバカマ。
バラ ○バラヒゲナガアブラムシ
 (イバラヒゲナガアブラムシ)
 バラミドリアブラムシ
 モモアカアブラムシ
 アキカラマツアブラムシ
新梢の先や花梗に緑色のアブラムシが群生。常に新しい伸長葉に移動する。
緑色、角状管は緑色で網目状をしない。
かたくなった部分につく。
アキ、カラマツ、バラに寄生する。
マサキ コミカンアブラムシ 黒色で若葉に寄生する。チャ、ツバキにもつく。
カエデ類
(モミジ)
○モミジニタイケアブラムシ

 ヒラヤマアブラムシ
春から秋にかけて新梢や葉に群がり、吸収加害、すす病併発、葉は縮れる。芽の付け根に卵越冬。

ツバキ
サザンカ
コミカンアブラムシ マサキの項参照
サルスベリ ○サルスベリヒゲマダラアブラムシ
 ニワトコヒゲナガアブラムシ
葉裏、花、枝につく。7〜8月に多く、すす病を併発。
冬寄生はニワトコ。夏はコブシ、アセビ、ヤマニイモ、ナンテン、ミカンなど。
ツツジ
サツキ
ツツジアブラムシ 3〜4月から開花期にかけて新芽、葉、つぼみ等につく。冬芽で卵越冬、すす病併発、初夏イグサに移る。
モクセイ類 ヒイラギノワタアブラムシ 体に白い綿毛をつけたアブラムシが枝幹に群がり加害する。初夏の頃からみられる。ヒイラギ、ネズミモチにもつく。
タケ、   ささ類 ○タケヒゲナガアブラムシ

 ササヒゲマダラアブラムシ
 タケノアブラムシ

タケノツノアブラムシ

 
タケの葉に寄生する普通種、運動活発、飛しょう敏速、淡黄色。
タケ、ササなどの芽に寄生。
タケ、ササなどの葉表に普通に見られる。冬寄主はウシコロシ(卵)、胎生メスでもタケで越冬。
体卵円形黒褐〜黒色、僅かに緑色をおびる。
無翅形は側方に長方形にロウ物質を出す。 

4.写真

キョウチクトウアブラムシ モモコフキアブラムシ葉裏での寄生
サルスベリヒゲマダラアブラムシ

 写真:福岡県園芸・茶病害虫図鑑より