10.カイガラムシ類

 カイガラムシは種類が多く、我国でも300種以上が知られている。半翅目に属し、吸汁性の日器を備え、多くのものがカイガラをまとう。
○カイガラを付けているもの…・クワシロカイガラムシ、ヤノネカイガラムシなど
○ロウ物質に覆われているもの…ルピーロウムシ、ツノロウムシなど
○カイガラを付けないもの………コナカイガラムシ類など
に大別される。

1.生態と被害

(1)ワタフキカイガラムシ科
 イセリアカイガラムシは2ヵ年に5世代をくり返し、野外においてその生長は極めて不規則である。雌1頭の産卵数は200~600程度とみられ、第1世代の産卵数が多い。ふ化した幼虫は、2令以降も移動性を失うことがない。被害はカンキツをはじめ、数十科~百数十種に及び、花き、花木では、ポタン、トベラ、ナンテン、エニシダ、アカシアなどに多い。
ほかに重要なものとして、キイロワタフキカイガラムシ、オオワラジカイガラムシがある。

(2)マルカイガラムシ科
 バラシロカイガラムシは年2回発生し、受精した雌の成虫で越冬し、4月ごろ産卵する。ふ化当時の1令幼虫には脚があり、脱皮後定着して養分を吸収する。この幼虫は6~7月に第1回の成虫となり、ついで8月下旬~10月に第2回めの成虫が現われるが、ハウス内などの発生は不規則になる。バラ、ナシなどの被害が大きい。本料に属するものは極めて多く、クワシロカイガラムシ、ウメシロカイガラムシ、ナシマルカイガラムシ、ランカキカイガラムシ、アカマルカイガラムシなど年間の発生回数は普通2~3回に及ぶものが大部分である。
形は円型のものが多いがヤノネカイガラムシやチャノナガカイガラムシのように長いもの、コンマカイカラムシのように左右不対称のものがある。各種の花木、庭本にそれぞれ特有のものが寄生加害し、樹を弱らせ枝梢を枯死させるものが多い。

(3)カタカイガラムシ科
 ルビーロウムシは年1回の発生で受精した雌で越冬し、6~7月ごろ体下に産卵する。卵期は短かく約24時間後にふ化した幼虫は移動するが、後で一定の場所に固着する。ふ化後約20日で最初の脱皮を行い、その後22~23日で第2回の脱皮を行う。29科50種以上の植物を加害するが、花木、庭木で被害が多いのは、ツバキ、サザンカ、サカキ、ヒサカキ、モッコク、モチ、タチバナモドキ、ポタンなどである。本科に属するものも数多く、ツノロウムシは各種庭木、花木を加害し、カメノコロウムシも加害作物が多い。この他、ヒラタカタカイガラムシ、タマカタカイガラムシ、ツバキワタカイカラムシ、クロカタカイガラムシなと重要なものがある。何れもスス病を併発する。

(4)フサカイガラムシ科
 タケフサカイカラムシ、フジツボカイガラムシなどがある。

(5)コナカイガラムシ科
 クワコナカイガラムシは年3回の発生で、卵で樹皮の間隙などで越冬するものが多いが、その他の各態でも越冬可能である。ツツジなど多くの作物を加害する。このほか重要なものとして、地上部を害するものにナガオコナカイガラムシ、フジコナカイガラムシ、マツモトコナカイガラムシ、オオワタコナカイガラムシ、地下部を害するものにイネノネカイガラムシ、ミカンネコナカイガラムシがある。

2.防除のねらい

(1)カイガラムシの生息場所は普通こみあった葉裏、葉に覆われた小枝、枝の分岐部など
  人目に付かない所が多い。このため発見が遅れて被害が大きくなり、防除が困難になる
  ので、常に注意深く観察して手遅れにならないようにする。
(2)ルビーロウムシやツノロウムシなどロウムシ類やコナカイガラムシ類、イセリアカイガラム
  シなど種類によっては、すす病の発生を伴うので、発見の目安にする。
(3)防除は発生の少ない時期にこすり落すほか、努めて天敵の利用を心がける。
(4)薬剤防除は多年生の花木、庭木などについては、休眠期のマシン油乳剤の効果が高い
  。また、幼虫発生期の防除も有効である。
(5)カイガラムシ類は種類によって年間1~3回発生し、また幼虫のふ化時期も当然それぞれ
  に異なる。したがって、発生している種類を明らかにし幼虫の発生時期を予測し、遅れな
  いよう薬剤防除を行う。なお、コナカイガラムシやワタフキカイガラムシなどの類は固いカイ
  ガラをかぶることがないので、卵期を防げば年間いつでも防除できる。
(6)さらに一般にカイガラムシ類の発生は比較的長く続くので、薬剤散布は2~3週間おきに
  2回行った方が効果的である。
(7)薬剤散布後、殺虫効果を知るため生死判定を行う必要があるが、カイガラムシは死後も
  葉や枝に固着しているので判別が容易でない。したがって、ほぼ1カ月を経た後、カイガラ
  をつぷすと、生虫なら生々しい汁(多くは赤色)が出るので、それで判断する。

3.防除法

 ・耕種的防除
 (1)発生の少ないうちに手で取り除くか、こすり落す。

 第5表 花きを加害するカイガラムシ類
種類名 種 名 加害部位 備  考
ストレリチア ○アカホシマルカイガラムシ
○アオキシロカイガラムシ
 
 シュロマルカイガラムシ
 ヤシシロマルカイガラムシ
 ウスイロマルカイガラムシ

葉、葉柄


"
"
温室内での発生は不規則である。年2回発生。第1世代幼虫は5月上~下旬に発生。

周年発生する。

洋ラン
パフィオペデュウム類
○ナガクロホシカイガラムシ
○ランウスマルカイガラムシ
 ミカンコナカイガラムシ

"
"
温室にのみ発生する。
バンダ類  ハンエンカタカイガラムシ
 ランクロホシカイガラムシ
茎、葉
"
周年発生。

デンドロビュウム類 ◎ランシロカイガラムシ
 ハンエンカタカイガラムシ
 ランクロホシカイガラムシ
 ナガクロホシカイガラムシ
 ランウスマルカイガラムシ
バルブ、茎
茎、葉
"

"
温室で周年発生。



シンビジュウム類 ◎タブカキカイガラムシ
○ナガクロホシカイガラムシ
○アカホシマルカイガラムシ
 ヒラタカタカイガラムシ


 ハランナガカイガラムシ


"
"
"


"

4月中旬頃から幼虫が発生する。

年4~5回発生し、年間を通して幼虫から成虫までみられる。

年2世代で、成虫越冬する。
カトレア類 ○ランシロカイガラムシ

 ヒラタカタカイガラムシ
 ハンエンカタカイガラムシ
 シュロマルカイガラムシ
バルブ、茎

茎、葉
"

サボテン ◎サボテンシロカイガラムシ
○サボテンフクロカイガラムシ
 サボテンコナカイガラムシ
 サボテンネコナカイガラムシ
 フタスジコナカイガラムシ

温室のみに発生。
     "
最近、温室で発見された。
        "
周年発生。
ゴムノキ ◎アカホシマルカイガラムシ
○クロカタカイガラムシ
 カメノコウカタカイガラムシ
 オンシツマルカイガラムシ

枝、葉

枝、葉

周年発生。
   "
シュロチク
カンノンチク
○カメノコウカタカイガラムシ
○ハランナガカイガラムシ
 シロナガカイガラムシ
 ウスイロマルカイガラムシ
 シュロマルカイガラムシ

"
"
"
葉柄基部

アナナス類 ◎アナナスクロホシカイガラムシ
◎ジャワマルカイガラムシ
○アカホシマルカイガラムシ
○アナナスシロカイガラムシ
 オンシツマルカイガラムシ
 シュロマルカイガラムシ

"
"
"
"
"
温室にのみ発生




 第6表 花木を加害するカイガラムシ類
 ○印は該当植物に主として寄生する種類
樹 種 種 類 加害部位 備 考
マキ ○マキアカマルカイガラムシ



○トビイロマルカイガラムシ



○ヒメナガカキカイガラムシ
葉、枝、幹







葉、新梢
年2回発生、6月と8月に幼虫が出現。すす病併発、多発すると樹勢が衰える。新しく出る葉は短くなる。
年3回発生、第1世代幼虫は5月中下旬、第2世代7月下~8月上旬、第3世代8月下~9月上旬に出現。
年2回発生、4月中旬より幼虫が現れるが発生経過は極めて不規則である。
マツ ○マツカキカイガラムシ

○マツコナカイガラムシ




 マツモグリカイガラムシ




葉、寄生部黄変

幹、枝




幹、枝




年2回発生、幼虫は5~7月と8月下旬に出現。
年1回発生、6月下旬より幼虫が現れるが発生は不規則である。すす病併発、幼虫が新芽に集まり吸収。樹勢は衰え、樹皮はうす黒く汚れる。
年2回発生、樹皮下に幼虫で越冬。枝幹上の割目に潜り、白色ワタ状、ロウ物質を分泌する。第1世代幼虫は6月頃ふ化する。は
スギ ○スギマルカイガラムシ





 ヒメナガカキカイガラムシ
○スギクロボシカイガラムシ






"
"
寄生部黄変、すす病併発、日陰を好み道沿のほこりをかぶるところに多い。年2回発生、幼虫越冬、第1世代幼虫5月下旬~6月上旬、第2世代幼虫9~10月に出現。
マキの項参照。
多く寄生すると黄変、枯死する。
年2回の発生、成虫越冬。
ヤナギ
ポプラ
○クワシロカイガラムシ



○ツノロウムシ

 ナシマルカイガラムシ
 (サンホーゼカイガラムシ)


○カメノコロウムシ

 イセリアカイガラムシ



枝、幹



"

"



"

枝、幹、葉



年3回発生、第1世代幼虫は4月下~5月中旬、第2世代幼虫7月上中旬、第3世代幼虫9月上中旬に出現。
年1回発生、幼虫は6月中下旬から7月中下旬に出現。
年3回発生、第1世代幼虫は5月下旬~7月まで、第2世代は7月中下旬~9、10月、第3世代9、10月~11月に出現。
年1回発生、ふ化幼虫は6月中旬~7月上旬に出現。
年3回発生、幼虫発生期は第1世代5~6月、第2世代7~8月、第3世代9~11月であるが、不規則である。
ナンテン ○イセリアカイガラムシ
○トビイロマルカイガラムシ
○ツノロウムシ
 カメノコロウムシ
 ルビーロウムシ


"
枝、幹
"


すす病併発。 ヤナギの項参照。
マキの項参照。
すす病併発。 ヤナギの項参照。
   "          "
年1回発生、幼虫は6月中下旬~7月下旬(7月上旬最盛期に出現)
サクラ類 ○ウメシロカイガラムシ
 ナシマルカイガラムシ
 (サンホーゼカイガラムシ)
 ツノロウムシ
 ナシシロナガカイガラムシ

枝、幹
"

"
"


ヤナギの項参照。

     "
寄生が多いと枯死する。
年1回発生、幼虫は6月に出現。
 
ウメ ○タマカタカイガラムシ

○ウメシロカイガラムシ


枝、幹、葉

枝、幹


ウメのみ寄生する。年1回発生、5~6月幼虫発生。
年3回発生、幼虫は5月、7月、9月に出現する。

バラ  イセリアカイガラムシ
○バラシロカイガラムシ

 クワシロカイガラムシ
○チャノクロホシカイガラムシ
 ナシマルカイガラムシ
 (サンホーゼカイガラムシ)
 トビイロマルカイガラムシ

枝、幹、葉
"
"
"





ヤナギの項参照。
年2回発生、幼虫は5月と7~8月に出現。
ヤナギの項参照。
年2回発生、経過不詳。
ヤナギの項参照。

マキの項参照。

ツゲ チャノマルカイガラムシ
ルビーロウムシ
トビイロマルカイガラムシ
枝、幹
"
年1回、成虫越冬。
ナンテンの項参照。
イヌツゲ ○トビマルカイガラムシ
 カメノコロウムシ
 ヒラタカタカイガラムシ

枝、幹
"
マキの項参照。
ヤナギの項参照。
年1回発生、温室内で多い。
クロガネモチ ○ツノロウムシ
○ルビーロウムシ
枝、幹
"
すす病併発。ヤナギの項参照。
    "  ナンテンの項参照。
マサキ ○トビイロマルカイガラムシ
○カメノコロウムシ
○ツノロウムシ
○マサキナガカイガラムシ


 チャノクロホシカイガラムシ


 ツバキクロホシカイガラムシ



葉、枝、幹
"
"
"


枝、幹






マキの項参照。
ヤナギの項参照。
     "
多くつくと枝は枯死する。すす病併発。年2回発生、5月下旬と7月下旬幼虫が出現。
年2回の発生、成虫で越冬、第1世代幼虫は5月中旬~下旬に出現。
年2回の発生、成虫で越冬、第1世代幼虫は5月中旬~下旬、第2世代幼虫7月中旬~11月上旬に出現。

 
カエデ類
(モミジ)
○チャノクロホシカイガラムシ
 イセリアカイガラムシ
○ツノロウムシ
○カメノコロウムシ
○チャノマルカイガラムシ
 ナシシロナガカイガラムシ
枝、幹
"
"
"
"
"
バラの項参照。
ヤナギの項参照。
     "
     "
ツバキの項参照。
年1回発生、幼虫越冬。幼虫は5月下旬~6月に出現。
ツバキ
(サザンカ)
○トビイロマルカイガラムシ
○カメノコロウムシ
○ツノロウムシ
 マサキナガカイガラムシ
○ツバキクロホシカイガラムシ
○チャノマルカイガラムシ


 ルビーロウムシ
 イセリアカイガラムシ
 ツバキワタカイガラムシ

葉、枝、幹
"
"
"
"
枝、幹


葉、枝、幹
"
葉、枝

マキの項参照。
すす病併発、ヤナギの項参照。
         "
マサキの項参照。
マサキの項参照。
多発すると枯死を起こす。
年1回発生、幼虫は5月下~6月下旬出現。
すす病併発、ナンテンの項参照。
ヤナギの項参照。
通常年1回発生、幼虫発生5月下旬~6月、成虫越冬。
サルスベリ
ザクロ
○サルスベリフクロカイガラムシ


 カメノコロウムシ
 ツノロウムシ
 ルビーロウムシ
枝、幹


枝、幹
"
"
すす病併発、年2回発生、越冬は主として卵態1部幼虫、幼虫は6月上中旬と8月頃現れる。
すす病併発、ヤナギの項参照。
          "
ナンテンの項参照。
ツツジ
(サツキ)
 カメノコロウムシ 
 ツツジワタコナカイガラムシ


枝、幹
新芽の先、葉


すす病併発、ヤナギの項参照。
すす病併発、年1回発生、幼虫越冬、ふ化幼虫は5月中旬~下旬出現。
シャクナゲ  シャクナゲコノハカイガラムシ 葉裏 年2~3回発生、成虫越冬、第1世代幼虫は5月中旬~下旬に出現。
モクセイ類 ○トビイロマルカイガラムシ
○チャノマルカイガラムシ
○ミカンマルカイガラムシ



○クワシロカイガラムシ

 ツノロウムシ
 カメノコロウムシ
 ミカンマルカイガラムシ
 パラトリヤカイガラムシ

葉、枝
"



枝、幹

"
"


マキの項参照。
ツバキの項参照。
年2回発生、成虫越冬、第1世代ふ化幼虫5月下旬~6月下旬、第2世代ふ化幼虫8月下旬~9月下旬。
ヤナギの項参照。キンモクセイにはウメシロカイガラも寄生。




サンゴジュ ○フジツボカイガラムシ



 カメノコロウムシ
○ツノロウムシ
 チャノクロカイガラムシ
枝、幹



"
"
"
すす病併発、年2回発生、幼虫越冬、第1世代幼虫5月上旬~中旬、第2世代幼虫7月中旬~下旬に出現。
ヤナギの項参照。
     " 
バラの項参照。
タケ、ササ類 ○タケフクロカイガラムシ



 タケノシロオカイガラムシ






葉、枝


すす病併発、年2回発生、幼虫越冬、第1世代幼虫5月上旬~中旬、第2世代幼虫7月中旬~下旬に出現。
小枝の葉梢部や分かれ目につき、生育が衰え、すす病併発。年1回発生、成虫越冬、5~6月頃幼虫が発生。

4.写真

 
ルビーロウカイガラムシ サルスベリフクロカイガラムシ
ナシマルカイガラムシ カメノコロウムシ

 写真:福岡県園芸・茶病害虫図鑑より