16.タバコガ類

 タバコガ(Helicoverpa assulta Guence)およぴオオタバコガ(Helicoverpa armigera(Hubner))はともに、日本を含むアジア全域からオセアニアに至るまで広く分布している。タバコガの寄主範囲は比較的狭く、ナス科の4種類、すなわちトマト、タバコおよびホオズキ属の2種が寄主植物と考えられている。以前、本邦では本種はその他の植物でも記録されているが、オオタバコガと混同された可能性が大きい(吉松、1995)。
 一方、オオタバコガの寄主範囲は広く、27科、60種以上が寄主植物として記録されている。主な寄主植物を挙げると、花き類ではキク、バラ、カーネーション、トルコギキョウ、カーベラ、ホオズキ、ヒマワリ、野菜類ではトマト、ナス、ピーマン、イチゴ、レタス、ニンジン、オクラ、エンドウ、ラッカセイなどのマメ科作物、キャペツなどのアブラナ科作物、オクラ、シシトウ、アスパラガス、穀類ではソルガム、トウモロコシ、果樹類ではリンゴ、モモ、ナシおよびブドウである。従来、本種の発生は突発的であったが、1994年の多発生以降、様々な作物で恒常的な害虫となりつつある。
 タバコガとオオタバコガは成虫、幼虫ともに酷似するため、両種を識別するには熟練を要する。成虫での区別点として、タバコガでは後翅の地色が黄色で翅脈が暗色にならないのに対し、オオタバコガでは後翅が白っぽく翅脈が黒褐色になることが、挙げられる。しかし、予察灯で捕獲された成虫のように、鱗粉が脱落した場合には両種の区別は困難となる。老齢幼虫の場合、タバコガでは気門線より下部の刺毛基部が黒色であるが、オオタバコガでは黒色とならず、タバコガに比べて刺毛数が多いことが識別の基準となる。

1.生態と被害

 両種は形態的に酷似しており、生態も共通する点が多いと考えられるため、以下ではオオタバコガの生態に関して記述する。
 付図に福岡農総試内に設置した予察灯へのオオタバコガ成虫の誘殺消長を示しているが、次年にかかわらず誘殺パターンはほとんど同じ傾向である。成虫は5月中旬から誘殺され、8月までは成虫の誘殺数は極めて少なく推移するが、9月〜10月に第2、3世代成虫の誘殺数が急激に増加する。9月からの成虫誘殺数の急増は8月に幼虫の発生量が急増に起因すると考えられ、このことは現地圃場で8月から幼虫の発生と被害が急増することと一致している。本種の発生量は年次間差が大きいため、5〜7月の成虫誘殺数から8月以降の発生量を予測できれば防除対策上きわめて有益であるが、この図から判断する限り事前に発生量を予測することは困難なようである。
 卵は寄主植物の先端部分の茎葉や花蕾に1個ずつ産みつけられる。孵化した直後の幼虫は未展開葉や花蕾に丸い穴をあけて食入する。このため、奇形葉を生じたり、蕾が脱落する。3齢を過ぎると摂食量が急増し、展開葉を摂食するばかりでなく果実や展開した花に侵入し、貪欲に摂食するため、生産物の商品価値を著しく低下させる。卵は個別に産下されるが、同一株や近接株に数頭の幼虫が集中することが多い。幼虫は5齢を経過した後、地表から数cmの土中で蛹化する。
 成虫の生存期問は20〜30℃の範囲で9〜10日で、雌当たりの産卵数は400〜600個である。卵から成虫羽化までは、約118日(15℃)、約45日(21℃)、約34日(24℃)、約23日(30℃)および約20日(33℃)を要し、35℃では発育が遅延し、37℃以上では発育できない。卵〜成虫羽化の期間の発育零点は11.2℃、有効積算温度は434.5日度である。

2.防除のねらい

 (1)中・老齢幼虫は花や果実に侵入するため、薬剤が虫体にかかりにくく十分な防除効果が期待できないので、若齢幼虫の発生時期をねらった薬剤防除を実施する。例年、幼虫の発生は8月から急増するので、この時期に徹底的な薬剤による防除をおこなう。

3.防除法

(1)黄色蛍光灯は成虫の飛来・産卵を抑制し、被害を軽減する。(ハスモンヨトウ)などの夜蛾
  類に対しても効果的である。(溝淵・田中、1995)。
(2)施設栽培では成虫の侵入を防止するために、開口部に寒冷紗を設置する。
(3)摘除した腋芽や花蕾には卵や若齢幼虫が付着している場合があるので、圃場外に持ち
  出し処分する。
(4)管理作業中などに圃場の観察に努め、新しい食痕や虫糞を見つけた場合にはその周囲
  を丹念に調べ、幼虫を捕殺する。
(5)耕起によって土中の蛹は死亡するため、冬期および春期の耕起を丁寧におこなう。

参考文献
 農文協編(1987)原色野菜病害虫百科1 トマト・ナス・ピーマン・他  農文協
 吉松慎一(1995)1994年に西日本で多発生したオオタバコガとその加害作物植物防疫   49 :495−499
 溝淵直樹・田中寛(1995)青ジソ(おおば)における害虫の防除対策植物防疫49:54−57