苗立枯病

1.発生生態

 苗立枯病は育苗床・本ぽへの播種から本葉2〜3葉期頃までの生育極初期に、 主に地際部から発病し立枯れ症状を起こすもので、 急速に蔓延するため防除対策が遅れ著しい被害を生じる場合が多い。  野菜類の苗立枯病は主としてRhizoctonia 属とPythium 属の糸状菌が原因となるが、 作物によって菌の種類は異なり、同一作物の苗立枯病に複数の病原菌が関与する場合や、 一種類の病原菌が複数の作物の苗立枯病を起こす場合がある。  一般的には、湿潤状態でPythium、乾燥状態でRhizoctonia の被害が大きい。
 また、以上の病害の他に、苗立枯病としては記載のない病原菌が苗立枯性の症状を引き起こす場合がある。 このような病原体として、Fusarium Phytophthora Aphanomyces Alternaria Colletotrichum Peronospora 属菌などがあるが、 主要なものはFusarium 属菌とPhytophthora 属菌である(第1表)。

〔リゾクトニア・ソラニによる苗立枯病]
 菌は培養型などで数系統に分けられる(第2表)。渡辺、松田らの分類によれば、 花き類や野菜などに苗立枯病を起こす系統は、生育適温が20℃前後のU型と24〜30℃のVA型があり、 主に後者を苗立枯病系と呼んでいる。
 主な病徴は、発芽前の立枯れ、胚軸から根部にかけての褐変、胚軸での黒褐色の深い陥没病斑などであるが、 植物と菌群の組み合わせ、感染時期、気温等により病徴は異なる。
 罹病植物の残渣とともに菌糸や菌核が土中に残ることで土壌伝染する。これらから再発生した菌糸により作物へ感染するが、 まれに菌核に生じた担子器から飛散した担子胞子により感染することもある。
 感染後は菌糸の伸長によって植物体の上部へ進展し、多湿条件では気中菌糸を生じて近接する植物体へも感染し、 ほ場に蔓延する。菌糸から直接胞子を生じることはないとされている。
 本菌は他にも66科263種の植物に病気を引き起こすが、成植物への病原性は菌群で異なっており、 DNA相同性でも各群は独立種とする意見が有力である。

〔ピシウム属菌による苗立枯病]
ピシウム属菌による花き類の苗立枯病はダリアで報告されているに過ぎないが、野菜類では、トマト、キュウリ、ユウガオ、ヘチマの4作物で、4種類の菌による苗立枯病が知られている。しかし、ピシウム属菌によって発生する病害は、苗立枯病のほかに、立枯病、根腐病、腐敗病、苗腐病等があり、これらの中には、幼苗期には苗立枯れ症状を起こすものも少なくない。
 本属菌による苗立枯病は、一般に30℃前後の高温で発生が多いが、菌の種類によっては、20℃前後の比較的低温条件下で発生する場合もある。
 本属菌は鞭毛菌類に属し、被害植物残渣とともに卵胞子の形で土中に残り、土壌伝染する。このような卵胞子は、適当な温湿度条件が整うと発芽し、菌糸または遊走子を形成し、植物体に感染する。感染後は菌糸が組織中に蔓延し、その菌糸上には遊走子のうが形成され、雨や潅水等による多湿条件下では遊走子のうから放出された遊走子が周辺の植物体へ感染し、急速に蔓延する。
 本菌による病徴は、茎の一部がくびれたようになり、腰折れ状になるのが特徴である。

 第1表 苗立枯病菌の種類と苗立枯病の報告がある作物
病 原 菌 の 種 類  作     物
Rhizoctonia solani Kuhn
シネラリア、ニチニチソウ、ヒマワリ、シクラメン、ダリア、カルセオラリア、ツツジ、マツ類、スギ、ヒノキ、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、キュウリ、マクワウリ、ユウガオ、メロン、キャベツ、タマネギ、ネギ
Pythium vexans de Bary
Pythium cucurbitaccarum Takimoto
Pythium debaryanum Hesse
Pythium hemmianum Takahashi
トマト
キュウリ
ダリア、キュウリ、ユウガオ
ヘチマ

2.防除のねらい

 本病の原因となる病原菌には多くの種類があるが、いずれも土壌伝染するので、育苗床は健全土壌を選ぷか、土壊消毒を行う等、床土の準備に十分な注意を払うことが最も重要である。
 発病後は急速に蔓延するので、育苗床の観察を怠らないようにする。また、発病した場合は速やかに罹病植物を取り除き、育苗施設内に放置しないように処分する。
 薬剤防除は発生の極く初期か予防散布に重点をおいて行うが、病原菌の種類によって有効薬剤が異なるので、菌の特定を速やかに行うことが重要である。

3.防除法

 ・耕種的防除
 (1)被害株はほ場に残さないように除去し、土中深く埋没するか、焼却処分する。
 (2)育苗床には健全土壌を使用する。また、直播の場合は連作を避け、無病畑で栽
   培する。
 (3)リゾクトニア属菌の場合は、休作期にほ場を湛水処理し、菌密度を低下させる。
 (4)育苗施設やハウス、トンネルは多湿を避け、換気を図る。   

 第2表 Rhizoctonia solani Kuhn による苗立枯病以外の病害
 キク立枯病、ミヤコワスレ株腐病、カーネーション茎腐病、チューリップ葉腐病、グラジオラス紋枯病、クロッカス球根腐敗病、ベゴニア茎腐病、ルビナス茎腐病、カンパニュラ根腐病、ペペロミアくもの巣病、スイートピー腰折病、ハナビシソウ根腐病、サボテンすそ腐病
 ダイコン根腐病、ハクサイしり腐病、ゴボウ黒あざ病、チシャすそ枯病、ニンジン根腐病、ミツバ立枯病、ホウレンソウ株腐病、ホウレンソウ立枯病、ヤマイモ根腐病、ミョウガ紋枯病、イチゴ芽枯病、カブ根腐病 

 第3表 Pythium 属菌が病原菌となる苗立枯病以外の主な病害
アスター立枯病
キンギョソウ苗腐病
ジニア立枯病
ペペロミア腐敗病
カトレア苗黒腐病
シンビジウム苗黒腐病
デンドロビウム苗黒腐病
ストック苗腐病
ルピナス腰折病
サボテン茎枯病
カトレア苗黒腐病
トマト綿腐病
キュウリ根腐病
    ”
キュウリ綿腐病
メロン根腐萎ちょう病
スイカ立枯病
ゴボウ根腐病
ダイコン腐敗病
ニンジンしみ腐病
ホウレンソウ立枯病
      ”
      ”
チシャ立枯病
ミツバ根腐病
   ”
   ”
.      
Pythium megalacanthum de Bary
P.spinosum Sawada
P.spinosum Sawada
P.splendens Braun
P.ultimum Trow
P.ultimum Trow
P.ultimum Trow
P.sp.
P.sp.
P.sp.
P.spp.
Pythium aphanidermatum (Edson) Fitzpatrick
P.myriotylum Drechsler
P.volutum Vanterpool et Truscott
P.aphanidermatum (Edson) Fitzpatrick
P.splendens Braum
P.debaryanum Hesse
P.irregulare Buisman
P.uitimum Trow
P.sulcatum Pratt et Mitchell
P.aphanidermatum (Edson) Fitzpatrick
P.parotcandrum Drechsler
P.ultimum
P. sp.
P.aphanidermatum (Edson) Fitzpatrick
P.aplerticum Tokunaga
P.sp.


 ・薬剤防除
  土壌消毒