ウイルス病・ウイロイド病

 カンキツのウイルス病やウイロイド病は、主に接ぎ木により伝染する病害であり、保毒をすると樹勢の衰弱や果実生産力の低下などが起こる。そのため、高接ぎなどの品種更新や改植に当っては、ウイルス病の伝染蔓延防止に十分な注意を払う必要がある。正確な診断が必要な場合、カンキツウイルス検査事業として温州萎縮病及び接木部異常病の抗体による検定を農総試果樹苗木分場で行っているので、抗体検査のためのサンブル採穂方法や申請等については、JAや農業改良普及センターなどの関係機関へ問い合わせる。

1.温州萎縮病 Satsuma dwarf virus(SDV)

(1) 生 態

 温州ミカンの春葉に舟型、サジ型の病徴を現わす。また一般に罹病樹では春枝の節間がつまり、叢生する。果実は腰高になる。早生温州の中には、時々舟形、さじ形葉を呈して温州萎縮類似症を示す樹があるが、ササゲ、シロゴマにも反応を示さないものは温州萎縮病ではない。接木伝染のほか、土壌伝染もする。なお、防風樹のサンゴジュも感染し、伝染源となる。

(2) 防 除 法(耕種的防除)

 ア.無病の母樹から採穂する。罹病樹でも夏枝では病徴が隠ぺいされているので注意する。
 イ.罹病樹には晩柑類を高接更新すれば直接の被害は避けられるが高接した晩柑 類は無病徴で感染しているから、これから穂木を採ることは絶対しない。
  

(3) 写真 


2.カンキツモザイク病  Citrus mosaic virus(CiMV)

(1) 生 態

 果実の病徴は温州ミカンの他、レモン、ネーブルなどで発生が知られている。果実に「トラミカン」と呼ばれる症状があらわれるが、これは早生温州では、9月頃、普通温州では10月頃にならないと判別できない。
 温州萎縮病ウイルスと近縁のウイルスによりおこると考えられている。ササゲ、シロゴマなどに反応が認められる。罹病樹では舟型葉を現わすがやや軽い。
温州ミカン以外のカンキツ品種への高接ぎ更新でも果実の被害は回避できない。
接木伝染のほか土壌伝染もする。

(2) 防 除 法(耕種的防除)

 ア.罹病樹は伐採抜根する。
 イ.発病園では、病樹跡と健全樹の境界に溝を掘って遮断する。
 ウ.罹病樹の跡地には植えない。
  

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3.接木部異常症(タタリーフ病)
 Apple stem grooving virus(Citrus tatter leaf virus

(1) 生 態

 罹病樹は穂木とカラタチ台との接合面にき裂を生じ、わい化または衰弱する。外見的には穂木部の肥大現象(台負け症状)やくびれを生じるが、穂木部と台木のいずれにも特別の病徴はみられない。日本の栽培品種のうち中国から導入された高しょう系ポン力ン、夕ンカンなどがカラタチ台では不親和現象をおこすとされたのは、この接木部異常症と考えられる。このほか温州ミ力ンにも発病する。
なお、吉田系を除く高しょう系ポンカン、タンカンはほとんどすべて感染しているので発病する。病原とされるタタリーフウイルスはエクセルサ、シトレンジの反応によって検定できる。病原ウイルスは実験的には汁液接種もできるが自然条件下で接触伝染がおこる可能性は少ない。

(2) 防 除 法(耕種的防除)

 ア.伝染経路は感染穂木と考えられるので健全母樹(ウイルス検定済みか、少くとも10年以上のカラタチ台成木で接木部が正常の樹)から採穂する 
 イ.高温処理(熱処理)によって処理苗の先端芽を無毒化できるので、品質のよい優良品種はこの方法で無毒化し母樹を育成すればカラタチ台でも栽培できる。

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剥皮

穂木とカラタチ台との接合面に離層が形成される
   

4. カンキツステムピッティング病(ハッサク萎縮病)
Citrus tristeza virus(CTV)

(1) 生 態

 接木やミカンクロアブラムシで伝染する。このウイルスはステムピッティング系とシードリングイエローズ系に分けられる。カラタチは免疫に近い抵抗性を示す。
ア.ステムピッティング系統
 生育障害、萎縮、果実の小玉化、木部のピッティングなどの症状を現わす。
 ハッサク、ナツダイダイ、ネーブルオレンジ、伊予柑、グレープフルーツ、セミノール等に発病し被害が大きい。温州ミカンやレモンは保毒しても被害はない。
イ. シードリングイエローズ系統
 葉が黄化し生育を阻害する。
 ハッサク、ナツダイダイ、レモン、グレープフルーツなどが弱く被害が大きい。スイートレンジやマンダリン等は潜在保毒する。

(2) 防 除 法(耕種的防除)

 ア.穂木は必ず母樹のステムピッティングなどの有無を検査しピッティング症状 のないものを使用する。温州ミカンなどへの高接更新は保毒している可能性が強いので好ましくない。
 イ. つぎ穂の生育が悪い場合や明らかな症状を認める場合には伐採焼却する。
 ウ.強剪定、結果過多、気象災害などによって樹が衰弱すると被害が大きくなる ので管理をよくし施肥を多く行い樹勢の維持に努める。

(3) 写真 


枝の樹皮下の木質部に溝や孔のようなくぼみ
  

5.カンキツエクソコーティス病 Citrus exocortis viroid (CEVd)

(1) 生 態

 病原はウイロイドである。台木の亀裂、剥皮、生育阻害などの症状を現わし、接木や汁液で伝染する。
 カラタチ、シトレンジなどの台木が侵され、レモン、グレープフルーツ、スイートオレンジ、温州ミカンなどに発生する。我が国で使用しているカラタチ台で被害が甚大となる。

(2) 防 除 法(耕種的防除)

 エクソコーティスの保毒樹に使用した剪定鋏、ノコは水酸化ナトリウム(2〜4%)とホルマリン(2〜4%)の等量混液を使用直前につくって、これで消毒する。また、簡易な方法として、台所用漂白剤「ハイター」で洗うことで消毒が可能であるが、開封後6ヶ月以内のものを使用する。

(3) 写真 

        
                         台木の樹に亀裂を生じて剥皮