株枯病  Ceratocysts sp.

1.現在までの発生経過

 本病は1981年に愛知県より報告された病害で,1998年時点での本病の発生県は13県に達し,全国の主要なイチジク産地にほぼ蔓延した状況にある。本県では1990年に行橋市,豊津町で発生をみとめて以来,現在までに18市町村で発生が確認されており,今後も発生地域の拡大が懸念される。現在,本県では品種‘蓬来柿’を栽培している京築地域(行橋市,豊津町)での被害が著しく,それに対して,品種‘桝井ド−フィン’を主に栽培している他の市町村での発生は比較的少ない。

2.病徴と被害及び診断法

1)病徴及び被害
 本病に感染したイチジクは、定植3〜5年目頃より株の片主枝又は全体の新梢が日中萎凋し、さらに進行すると下葉が黄化したり枯れ込みが見られ、最後には早期落葉する。本病に侵されたイチジク成木の主幹基部には、紡錘形のやや凹んだ病斑が観察されることが多く、このような病斑の表皮下は形成層から木質部深くまで黒褐色に変色している。また、本病に侵された苗木や幼木では容易に株を引き抜くことができ、このような株の根基部は腐敗枯死している。

2)診断法
 ア)罹病樹の簡易診断法
 本病の簡易な診断法として、褐変した病斑部の表皮をビニル袋等に入れ、軽く水を含ませて湿室条件とし、25〜30℃で一週間程保つという方法がある。これにより、病斑部の表面に長さ1〜2oの黒い髪毛状の子のう殻と淡黄色の胞子塊を生じれば本病とほぼ診断できる。
 本病には類似した病害としては白紋羽病や疫病及び胴枯病があるが、白紋羽病は地下部の主幹や根の表面に白色の菌糸が見られることで、疫病は病斑部が軟化腐敗することで、また、胴枯病は病斑上に亀裂や小黒点が見られることで区別できる。
 イ)土壌診断法
 土壌中における本菌の有無を推定する方法として、イチジクの切り枝を利用した簡易な土壌診断法がある。これは現地の土壌をビーカーに採集し、滅菌水を分注して湿潤状態とした後、イチジクの切り枝を土壌に突き刺しておくだけの簡単な方法である。なお、土壌汚染の有無は25〜30℃、7〜10日後に、切り枝と土壌との境界付近に形成される子のう殻の有無により肉眼で可能である。

3.病原菌の分類学的位置と形態

1)病原菌の分類学的位置
 これまで、本病の病原菌はサツマイモ黒斑病菌と同一の Ceratocysts fimbriata(セラトシスティス・フィンブリアータ)であるとされていた。しかし、その後の調査で本菌は C.fimbriataと比較して子のう穀の大きさや温度別の生育速度が大きく異なるほか、サツマイモに対して病原性が認められないことが判明した。このことから、本菌は新種のCeratocysts属菌の可能性もでてきたので、本菌の分類学的位置について現在、検討中である。

2)病原菌の形態
 本菌は菌糸、分生胞子、子のう穀及び子のう胞子を作るが、大きな特徴は長さ1〜2oの子のう穀を病斑部に裸出して形成することである。子のう穀は黒色で、子のう果の上には長い頸部を有し、その先端には飾毛があり、飾毛開ロ部からは淡黄色塊状の子のう胞子を噴出する。また、分生子梗の先端から内生的に2種類の胞子を作ることも本菌の特徴で、一つは無色単胞で桿状の分生胞子、他の一つは球形または卵円形で、成熟すると褐色〜オリーブ色を呈する厚膜胞子である。

4.伝 染

 本病は土壌伝染や苗伝染等を行うほか、キクイムシ類によって虫媒伝染する。伝染経路としては,罹病苗の持ち込みによる伝染が大きく,このような苗の持ち込みによって無病地の土壌が汚染されるため,再度無病苗を定植しても土壌伝染によって再発する。また,罹病樹の病斑上に形成された分生胞子や厚膜胞子が雨水によって土壌表面に流出し,周辺の土壌を汚染する。さらに,本菌を保菌したアイノキクイムシ(Xyleborus interjectus)によって虫媒伝染する。なお,本虫は樹勢の低下した樹や直径5cm以上の太さがあり,かつ付傷部のある主枝や主幹に誘引されやすいようである。露地栽培における本虫の分散及び穿孔時期は,4月上旬〜5月上旬と7月中旬〜8月中旬の2回と思われるが,詳細については現在調査を継続中である。なお,ハウス栽培における本虫の分散時期は不明である。

5.防除対策

1)発病地における対策
 本病は土壌伝染や苗伝染および虫媒伝染する難防除病害であり,一旦発生すると蔓延が急激である。このことから,発病樹は発見次第,根まで含めて掘り上げ除去焼却する。
 なお,本菌による土壌汚染は発病樹の根部付近の土壌を除き,表層から深さ15cmまでの比較的浅い範囲にとどまっていることから,汚染表土を除去後,無病土を客土することも有効な方法と考えられる。これらの対策を実施した後,後述の総合的な防除対策を実施する。

2)無病苗の育成
 本病は苗伝染するため,罹病苗を持ち込まないよう苗の選別には十分注意し,過去に罹病苗が認められた苗木圃場からは,たとえ外観が健全な苗でも導入しないようにする。汚染土壌ではクロルピクリン剤で土壌消毒しても無病苗を得ることは極めて困難である。このことから,未発生地の健全樹から穂木を採って自家育苗し,未発生地で栽培を再開することが最も確実な方法である。

3)総合的な防除対策
 発生地における総合的な防除対策としては,汚染表土を除去し無病土を客土後に無病苗を定植し,定植時および生育期の4月から11月にかけて1カ月間隔でトリフミン水和剤500倍液を1株当り1gかん注する必要がある。なお,棚栽培を導入し,主枝に傷を付けない栽培法に切り替えることも有効な予防法と考えられる。

6.写真 


枯死状況

幹の状況

幹の内部の褐変状況