■促成栽培イチゴにおけるチリカブリダニ利用マニュアル



ハダニによる被害写真
ハダニによる被害
チリカブリダニ雌成虫写真
チリカブリダニ雌成虫


技術資料 2001/08/23
2001/10/18改訂
2002/01/17改訂

福岡県農業総合試験場野菜花き病害虫研究室


生態的特性/現地試験結果/放飼方法/ハダニ類以外の害虫防除法
ハダニ類の密度調査法/効果の判定と対策

■チリカブリダニの生態的特性

 生活史と形態
    :ナミハダニ、カンザワハダニなどの卵、幼虫(若虫)、成虫
  生活環:卵→幼虫→第1若虫→第2若虫→成虫(ナミハダニと同じ)
     [卵] 楕円形でナミハダニの卵の約2倍の大きさ(ナミハダニの卵は球形)
     [幼虫〜若虫]幼虫は捕食しないが、第1若虫、第2若虫ともに捕食する。
     [成虫]捕食量が多い。ナミハダニ成虫とほぼ同じ大きさ。

 発育に対する温度と湿度の影響
  温度が高いほど、発育日数は短くなる(下表)。
   (チリカブリダニの発育日数はナミハダニより顕著に短い)
  湿度が高いほど、卵のふ化率が高い(50%以上の湿度が必要)。

チリカブリダニとナミハダニの発育に対する温度の影響

 繁殖能力

  チリカブリダニの繁殖能力はナミハダニより高い(下表)
  餌がない場合でも、水や蜂蜜があると生存できる。

 捕食特性
  温度が高いほど、捕食量は多くなる(ただし、35℃では捕食を停止する)。
  湿度が低いほど、捕食量は多くなる(ただし、50%以下ではふ化率が低下する)。
  雌成虫1頭の1日当たりの捕食量(20℃):ハダニ成虫5頭または幼虫20頭

 分散・採餌行動
  チリカブリダニは、餌の探索能力が高い。
  チリカブリダニは、ナミハダニより分散能力が高い。
  作物の栽植密度が高いと、分散能力が高くなる。
  成虫は餌密度が低下すると、分散を開始する。
  若虫は餌密度が低下しても分散せず、餌を食い尽くす。

■現地試験結果

 試験方法
  1.試験場所:筑後市富安
  2.放飼方法(表1のとおり)

天敵の放飼および殺ダニ剤の防除実績

 結  果
  1.年明け後の2月上旬からチリカブリダニを放飼しても、放飼効果は低い。
  2.チリカブリダニまたはミヤコカブリダニを10月下旬〜2月上旬に3回放飼すると、
   ハダニ類の密度を4月まで低く抑制する。
  3.2月下旬〜3月下旬にも放飼すると、5月までハダニの密度を抑制すると推定される。

 結  論

  促成栽培イチゴでは、「チリカブリダニを10月下旬〜11月上旬、11月下旬〜
 12月上旬、1月下旬〜2月上旬および2月下旬〜3月上旬の4回、1回につき10a当たり
 2000頭を放飼する。」

カブリダニ類の放飼圃場におけるハダニ類の密度推移

カブリダニ類の放飼圃場におけるハダニ類による被害の推移

■チリカブリダニの放飼方法

 促成栽培イチゴでのチリカブリダニ利用の考え方
  • ハダニ類の密度が高くなってからは効果が期待できないので、ハダニ類の密度が増加する前から予防的にスケジュール放飼する。 
  • 年内から定期的に放飼し、ハダニ類の密度をゼロに維持することを目標とする。年明けからの放飼では遅すぎる。
  • 放飼した成虫の働きに期待する。次世代の幼虫・成虫の発生は少なく、効果は期待できない。
  • 成虫の寿命は長く、餌の探索能力が高いので、一定の間隔で圃場全面に均一に放飼する。

 チリカブリダニの放飼時期(下表の▼)

   第1回:ビニル被覆後の11月上旬
   第2回:第1回放飼の約1ヶ月後
   第3回:ハダニ類の密度の増加速度が高くなる1月下旬〜2月上旬
   第4回:第3回放飼の約1ヶ月後。

チリカブリダニの放飼時期

 チリカブリダニの放飼頭数

   1回につき、2000〜3000頭/10a(1〜1.5ボトル/10a)。

 チリカブリダニと併用できる農薬

   チリカブリダニを利用する際には、他の病害虫に対して本天敵に影響の少ない
  農薬をだけを使用する(下表)。

チリカブリダニと併用できる農薬

 チリカブリダニを利用する時の注意事項

  • ハダニ類は発生初期には下部の古葉に多いので、放飼前に必ず下葉かきを行う。
  • 放飼前にハダニの密度が0.5頭/複葉、または、被害複葉率が5%以上であれば、
    チリカブリダニに影響の少ない農薬を散布した後、放飼する。
  • チリカブリダニの届いた当日に必ず放飼する。

■ハダニ類以外の害虫防除法

 アザミウマ類(特にミカンキイロアザミウマ)の防除

  発生の特徴と防除の考え方

  • 1番花の開花期に施設外部から侵入する。施設内に残ったアザミウマ類が2月下旬
    頃から急激に増加する。
  • 1番花の開花までに施設内外の除草を徹底する。
  • アザミウマ類の防除は年内に徹底する。

  具体的方法

   1)常発地:
     開口部に0.6o目合いの防虫ネットを張る。
     モスピラン粒剤の植え穴処理を行う
     1番花開花期に7日間隔で2回薬剤防除
     注)チリカブリダニに影響の無い薬剤:カスケード乳剤、マッチ乳剤、
      モスピラン水溶剤、スピノエース顆粒水和剤
   2)その他の地域
     1番花の開花期に開口部近くの花を30〜50個観察し、アザミウマ類の発生
     が認められたら、チリカブリダニに影響の少ない薬剤を7日間隔で2回散布する。
   3)生物的防除
      1番花の開花初期からククメリスカブリダニを100頭/株の割合で、3回放飼
     する(7日間隔)。モスピラン粒剤の植え穴処理と併用すると効果が高い。

 アブラムシ類の防除

  発生の特徴と防除の考え方

  • アブラムシの寄生した苗の持ち込み、外部からの有し虫の飛び込みによって
    圃場内で発生する。
  • 施設内外の除草を徹底する。
  • ビニル被覆直後に防除を徹底し、圃場内にアブラムシが残存しないようにする。

  具体的方法

   1)常発地
     モスピラン粒剤の植え穴処理をおこなう。
     ビニル被覆直後に薬剤を散布する。
      注)チリカブリダニに影響の無い薬剤:モスピラン水溶剤、チェス水和剤
   2)その他の地域
     ビニル被覆直後にチリカブリダニに影響の少ない薬剤で防除する。
   3)生物的防除
     コレマンアブラバチをビニル被覆後から1〜2頭/uの割合で3回放飼する
     (7日間隔)。

 ハスモンヨトウの防除

  発生の特徴と防除の考え方

  • 年次による発生量の変動が大きい。
  • 多発年には8月から発生が多くなり、11月まで発生が続く。
  • 分散前の幼虫の早期発見に努め、ビニル被覆前後までに防除を仕上げる。

  具体的方法

  • ハスモンヨトウの被害を認めたら、IGR剤やBt剤で防除する。

■ハダニ類の密度調査法

 1)ハダニ類の密度調査法
   単棟ハウスの場合(調査時間:約15分)
    1)等間隔で4畝を選ぶ
    2)1畝から20株を等間隔に選ぶ
    3)1株から成熟した完全展開葉を1枚選ぶ
    4)葉裏のハダニの生息の有無(または雌成虫数)を調べる。

   2連棟ハウスの場合(調査時間:約25分)
    1)各棟から等間隔で3畝を選ぶ
    2)1畝から20株を等間隔に選ぶ
    3)1株から成熟した完全展開葉を1枚選ぶ
    4)葉裏のハダニの生息の有無(または雌成虫数)を調べる。

   3連棟ハウスの場合(調査時間:約30分)
    1)各棟から等間隔で3畝を選ぶ
    2)1畝から15株を等間隔に選ぶ
    3)1株から成熟した完全展開葉を1枚選ぶ
    4)葉裏のハダニの生息の有無(または雌成虫数)を調べる。

 2)被害調査法
   1)圃場全体を歩き、ハダニによる被害(カスリ状の葉)があるかを調べる。
   2)被害発生には目印をつける。
   3)調査毎に被害の進展度合いを調べる。

 3)調査時期
   1)ビニル被覆7日後から1〜2週間間隔で行う。
   2)カブリダニの放飼日前には必ず調査する。
   3)1月下旬または2月上旬には必ず調査する。
   4)調査は4月下旬まで実施する。

■効果の判定と対策

 スケジュール放飼

 1)第1回放飼1週間前(ビニル被覆7〜10日後)
    @7日後にチリカブリダニ放飼

 2)第2回散布1週間前(11月下旬)
    @ハダニの坪状の発生カ所が無い → 7日後にチリカブリダニの放飼
                      [3)へ進む]
    Aハダニの坪状の発生が認められる → 薬剤防除に切り替える

 3)第3回放飼1週間前(1月下旬)
    @ハダニの坪状の発生カ所が無い → 7日後にチリカブリダニの放飼
                      [4)へ進む]
    Aハダニの坪状の発生が1〜2カ所ある → 発生カ所に薬剤散布し、7日後に
                         チリカブリダニの放飼
                      [4)へ進む]
    Bハダニの坪状の発生が3カ所以上ある → 薬剤防除に切り替える

 4)第4回放飼1週間前(2月下旬)
    @ハダニの坪状の発生カ所が無い → 7日後にチリカブリダニの放飼
                      [5)へ進む]
    Aハダニの坪状の発生が1〜2カ所ある → 発生カ所に薬剤散布し、7日後に
                         チリカブリダニの放飼
                      [5)へ進む]
    Bハダニの坪状の発生が3カ所以上ある → 薬剤防除に切り替える

 5)3月下旬
    @ハダニの坪状の発生カ所が無い →  チリカブリダニの放飼必要なし。
                      [6)へ進む]
    Aハダニの坪状の発生が1〜2カ所ある → 発生カ所に薬剤散布し、7日後に
                         チリカブリダニの放飼
                      [6)へ進む]
    Bハダニの坪状の発生が3カ所以上ある → 薬剤防除に切り替える

 6)4月下旬(効果の最終判定)
    圃場を見回し、ハダニの坪状の発生カ所数を調査する。

 モニタリング放飼

 1)第1回放飼1週間前(ビニル被覆7〜10日後)
    @ハダニ密度が0.5頭/複葉以下、または発生複葉率が5%以下
      → 7日後にチリカブリダニの放飼[2)へ進む]
    Aハダニ密度が0.5頭/複葉以上、または発生複葉率が5%以上
      → ダニ剤を散布後、7日後にチリカブリダニの放飼[2)へ進む]

 2)第2回放飼1週間前(11月下旬)
    @ハダニ密度が0.5頭/複葉以下、または発生複葉率が5%以下
      → 7日後にチリカブリダニの放飼[3)へ進む]
    Aハダニ密度が0.5頭/複葉以上、または発生複葉率が5%以上、
     ハダニの発生の坪が1〜2ヶ所
      → 発生ヶ所の薬剤を散布し、7日後にチリカブリダニの放飼[3)へ進む]
    Bハダニの密度が1.0頭/以上、発生複葉率10%以上、
     ハダニの発生の坪が複数ヶ所ある
      → 薬剤防除に切り替える

 3)第3回放飼1週間前(1月下旬)
    @ハダニ密度が0.5頭/複葉以下、または発生複葉率が5%以下
      → 7日後にチリカブリダニの放飼[4)へ進む]
    Aハダニ密度が0.5頭/複葉以上、または発生複葉率が5%以上、
     ハダニの発生の坪が1〜2ヶ所
      → 発生ヶ所の薬剤を散布し、7日後にチリカブリダニの放飼[4)へ進む]
    Bハダニの密度が1.0頭/以上、発生複葉率10%以上、
     ハダニの発生の坪が複数ヶ所ある
      → 薬剤防除に切り替える

 4)第4回放飼1週間前(2月下旬)
    @ハダニ密度が0.5頭/複葉以下、または発生複葉率が5%以下
      → 7日後にチリカブリダニの放飼[5)へ進む]
    Aハダニ密度が0.5頭/複葉以上、または発生複葉率が5%以上、
     ハダニの発生の坪が1〜2ヶ所
      → 発生ヶ所の薬剤を散布し、7日後にチリカブリダニの放飼[5)へ進む]
    Bハダニの密度が1.0頭/以上、発生複葉率10%以上、
     ハダニの発生の坪が複数ヶ所ある
      → 薬剤防除に切り替える

 5)3月下旬
    @ハダニ密度が0.5頭/複葉以下、または発生複葉率が5%以下
      → チリカブリダニの放飼必要なし[6)へ進む]
    Aハダニ密度が0.5頭/複葉以上、または発生複葉率が5%以上、
     ハダニの発生の坪が1〜2ヶ所
      → 発生ヶ所の薬剤を散布し、7日後にチリカブリダニの放飼[6)へ進む]
    Bハダニの密度が1.0頭/以上、発生複葉率10%以上、
     ハダニの発生の坪が複数ヶ所ある
      → 薬剤防除に切り替える

 6)4月下旬(効果の最終判定)
     ハダニ類の密度およびハダニの坪状の発生カ所数を調査し、最終判定を下す。


このマニュアルは、福岡県農業総合試験場の病害虫部野菜花き病害虫研究室で作成されたものです。
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