界面活性剤の種類と機能性展着剤(アジュバント)

 
1.界面活性剤
 一般に水と空気、水と油、あるいは水とガラスのように、気体・液体・固体のうち二相の境界を界面と呼びます。例えば、ビーカーに水と油を入れてかき混ぜても、しばらくすると水と油は溶け合わないで境界をはさんで上層に油、下層に水の二相を形成します。それに、石鹸水を加えてかき混ぜると、水と油の二相がお互いになじみ合って乳濁状の溶液に変わります。この場合、石鹸がなじみにくい水と油の界面に働いて安定な乳濁状態を作り出すことによります。このように二物質間の界面に作用してそれらの界面の性質をいちじるしく変える性質を界面活性と言います。また、石鹸のように著しい界面活性を示す物質を界面活性剤と呼びます。
 界面活性剤は湿潤・吸湿・浸透・可溶化・乳化・分散・起泡・潤滑・洗浄・帯電防止・吸着・皮膜形成・殺菌・細胞膜攪乱・防錆など多くの作用を持っています。

 
2.界面活性剤の構造
 界面活性を持つ物質の共通した基本構造は、油になじみやすい部分(親油基または疎水基ともいう)と水になじみやすい部分(親水基)の二つの部分から成り立っています。良好な界面活性を示すには、親油基と親水基がそれぞれ同一分子中に占める割合が重要であり、どちらか一方があまり大きくなり過ぎると界面活性は失われ、ただの油溶性または水溶性の物質になります。すなわち新油基と親水基の間に適当なバランス(HLBという)が保たれることが大切です。

 
3.界面活性剤の種類
 界面活性剤の種類は極めて多いが、界面活性剤が水溶液で界面活性を示す部分の性質に着目して、次のように大別されます。 
 1)陰イオン(アニオン)性界面活性剤
 2)陽イオン(カチオン)性界面活性剤
 3)両性界面活性剤
 4)非イオン(ノニオン)性界面活性剤

 
4.展着剤の種類
 農薬用展着剤は、その機能で大まかに分けると、濡れ性(展着効果)を改善する「展着剤(スプレッダー)」と、浸透性を高めるなどの機能を付加した「機能性展着剤(アジュバント)」、及び対象作物の表面への固着性を高める「固着性展着剤(スチッカー)」の3つになります。

 1)展着剤(スプレッダー)
 展着剤の中で最も種類が多く、散布液の表面張力を下げることで湿展性を改善し、濡れにくい作物や虫体への付着性をよくして防除効果を高めます。
 しかし、展着剤の加用量が多すぎるとかえって付着量が減り、防除効果を低下させるので、ラベルに記載の注意事項を確実に守ることが重要です。特に濡れやすい作物に対してはこの傾向が強いので注意が必要です。
 主成分としては、非イオン界面活性剤のみのものと、非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤とを混合したものがあります。

 2)機能性展着剤(アジュバント)
 植物、害虫、病原菌などの表面を「濡らす力」と「表面から内部へとしみ込ます力」の両方を併せ持ったものをいいます。
 界面活性剤は、その濃度が高くなると外側が親水性で内部が疎水性のミセルと呼ばれる粒子を形成するようになり、濃度が高くなればなるほどミセルの量が多くなる性質を持っています。このミセルは、その内部に水に溶けない農薬などの分子を中に取り込み、より微少な粒子にすることで、植物、害虫、病原菌などの外から中へしみ込む力を与えます。
 機能性展着剤の主成分は、非イオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤が中心となります。

@非イオン性界面活性剤
 非イオン性界面活性剤の特徴は、各用途に応じて最適の親油性と親水性のバランス(HLB)のものを選択して使用できることです。このHLBの選択で、水に投入された際、自分自身でミセルを作り(自己ミセル形成という)、親水性を示すものにアプローチBI、サーファクタントWK、サプライなどがあります。
 これらの機能性展着剤は、濡れ性のほか、強い可溶化力、付着力を示し、農薬などを外から中へしみ込ませることが出来ます。
 一方、親油性が強い場合は、自己ミセルを作らず、油滴を形成します。このようなものにはスカッシュなどがあります。スカッシュの成分は、この油滴が溶解力を示し、農薬などの成分を油滴溶解する力を有しているとともに、散布後、皮膜形成をを示し、ダニ、アブラムシなどの気門封鎖(窒息死させる)のはたらきを持っています。
 
A陽イオン性界面活性剤
 陽イオン性界面活性剤にはニーズなどがあります。その作用性は、すべての物質の表面はマイナスに帯電しているので、陽イオン性界面活性剤は、素早くマイナス表面に吸着します。このように、細菌、糸状菌などの表面に吸着することで、細胞膜の外から中へ農薬などの物質を取り込ませることが出来ます。これはミセルの利用と陽イオン性界面活性剤の吸着力とそれに伴う細胞膜に対する攪乱作用を利用したものです。また、陽イオン界面活性剤はそれ自体でも、抗菌活性を持っており、特にうどんこ病のように菌糸体が表面にでている病害に対して有効に働きます。
 
 3)固着性展着剤(スチッカー)
 作物などに付着した薬剤の固着性を高めて風雨による流亡を少なくし、薬剤の残効を高めます。主に、果樹の樹幹などに保護用殺菌剤を散布する場合に使用されています。

 
5.米国でのアジュバント利用
 米国では多くの登録農薬が特定の種類のアジュバントの利用を明記していますが、その主な目的は、@効果増強、A薬害の軽減、B散布液の改善、C環境負荷の低減、D法的な対策、Eその他、に分けられます。米国では18種類以上のアジュバントが登録ラベルに記載されており、そのうち非イオン系界面活性剤、植物オイル濃縮剤、肥料アジュバント、拡展・固着剤の4つが最も一般的に推奨されています。アジュバントはタイプに応じて濡れ・拡展・固着・浸透・効果増強・均一性・泡立ち・泡立ち防止・泡立ち低減・付着・安定化・ドリフト低減などの機能がありますが、なかでも効果増強が最大の機能といえ、それは一般に濡れ・拡展・固着・浸透によってもたらされます。

 農薬の効果を最大限引き出すには、その特性や使用方法などを把握することが重要ですが、アジュバントの利用に際しても、適正な種類を選択し、そのなかで最適な製品を選び、そして適正な量で使用することが重要です。また、機能・使用量・農薬・作物・環境条件それぞれの適切な組み合わせを十分意識することが大切です。
 
 
(参考文献)
・岩崎徹治  界面活性剤と機能性展着剤(アジュバント)の利用技術  
       1999年 今月の農業 10月号
・Allen K.Underwood  Adjuvants and their Effects on Spray Application
            アジュバントとその役割(要約)   
            2000年 シンポジウム「21世紀の農薬散布技術の展開」