植物の病気の簡易検定法
1.ウイルス病
野菜に発生するモザイク病の多くは汁液伝染が可能なので、検定植物(例:アカザ、グルチノザ又は健全な同属植物の苗等)を選んで汁液接種することにより、その病気がウイルスによるものであるかどうか診断できる。
@ウイルスに感染した新葉部分を切り取り、乳鉢で新葉と等量の水を加えてすりつぶす。
A接種植物の葉にカーボランダム(接種植物の葉面に微細な傷を付けるための炭化珪素の粉末)をふりかけ、汁液を脱脂綿で軽く擦り付ける。(汁液が少ないようであれば倍量の水を加える。)
B接種が終わったら、接種葉面に残っている汁液、カーボランダムを直ちに水で洗い流す。
C接種したウイルスに感染した場合、1週間から2週間ほどで局部病斑、全身病徴を発現することが多い。
2.青枯病
バクテリアの増殖は急速であるため、罹病植物の維管束内や組織から菌泥が噴出するのが観察される。
このため、茎の切断部や組織の断面を水に浸けることで、白色の菌泥の噴出を見ることができる。

トマトの青枯病
3.細菌による葉枯れ
斑点が葉に見られる場合、病患部と健全部の境界を切り取り、検鏡すると病患部の方から菌泥が噴出するのが観察される。
4.軟腐病
@ニンジンの表面を水洗後、1cm位の厚さに輪切りにする。(ジャガイモ、ダイコン等でもよい。)
A輪切りにした切片を70%アルコールで表面を殺菌した後、再度水洗する。
Bシャーレにろ紙を2〜3枚敷き湿らす。(湿度90%程度が望ましい)
C検定物をニンジンの切片の上に載せる。
D30℃の高温条件で1昼夜静置する。一般に軟腐病の場合半日ほどで腐敗し、悪臭を放つ。
5.糸状菌による病気
病患部をルーペで観察し、胞子等が見えるときには、その部分にセロテープを貼ってはがし顕微鏡で観察する。何も見えないときには、病患部を水洗しシャーレの底に水で湿らせたろ紙を敷き、ふたをして2〜3日静置する。病患部に糸状菌が観察されるようになった場合には、その菌糸の部分を切り取り顕微鏡で観察する。観察される糸状菌は種類によって、菌糸や胞子の形状が異なるためそれを観察することで、病気の診断が可能である。
例1)べと病菌
分生子柄は樹木状で普通隔膜がなく、寄主植物の気孔から1〜数本抽出する。分生子柄の先端には、分生胞子(遊走子のう)が見られるが、分生胞子は常に単細胞からなり、多くは球型、卵型、楕円形に近い。
例2)疫病菌
べと病菌と同じく菌糸には隔膜がないが、繊細な分生子柄の上に大きなレモン型の分生胞子(遊走子のう)が形成される。
例3)うどんこ病菌
菌糸上には多数の分生子柄が直立し、その先端に長卵形〜円筒形などの大型な分生子がじゅず状に形成される。
例4)灰色かび病菌
分生子柄は隔膜を有し、数回分枝し、それぞれの枝の先端は緩く膨らみ、多数の分生子がブドウの房のように固まって形成される。分生胞子は無色、単胞、楕円形または卵形。

キュウリの灰色かび病
例5)萎ちょう病菌
導管感染による萎ちょう性の病気では、罹病植物の茎を切断すると維管束部分の変色(褐変)が確認される。
※1)病原の証明
病気を起こしていると考えられる病原体が、本当に、その病原であるかどうかを決定するためには、コッホの原則(Koch's postulates)が適用される。
※2)コッホの原則
@問題の病原体が常にその病気と関係している。
Aそれは分離されて、純粋培養されねばならない。
B健全植物にそれを接種したとき、もとと同じ病気が再現されねばならない。
Cこの感染した植物から同じ病原体が再分離されねばならない。
しかし、純寄生者(生きた植物体のみを利用して、栄養を摂取し、増殖するものであって、他の場所では繁殖できない。培地上で人工培養できないもの)の場合には、純粋培養が出来ないので、@、Bの項目を注意深く観察することが必要である。
