平成18年度病害虫発生予察特殊報 第1号
                                                                              平成18年10月5日
                                                                              奈良県病害虫防除所
1.病害虫名 ミカントゲコナジラミ
学名:Aleurocanthus spiniferus (Quaintance)
 
2.発生を認めた作物名 チャ
 
3.特殊報の内容 本県におけるチャでの初発生を確認
 
4.発生地域 県北東部
 
5.発生経過
1)平成18年9月に、普及指導員が県内の茶生産圃場において本種らしき成虫の飛翔を観察したので、その後県内の茶産地を中心に巡回調査を行った。その結果、奈良市田原地区、柳生地区、月ヶ瀬地区、都祁地区、山添村、宇陀市室生区の茶圃場において、低密度ではあるが、成虫と幼虫、卵の発生を確認した。
2)採集したコナジラミを関西大学の宮武頼夫博士に同定依頼したところ、ミカントゲコナジラミ Aleurocanthus spiniferus (Quaintance)と同定された。
3)本種は本州以南に広く分布し、従来は主にカンキツ類の害虫として知られていた。チャへの寄生・加害は平成16年に京都府南部において初確認され、本年に滋賀県でも確認されている。奈良県では、県北東部の茶産地のほぼ全域に分布を確認したが、密度は概ね低く、侵入後それほど時間は経過していないと考えられる。
 
6.形態(写真)
1)雌成虫の体長は約1.3mmで、雄はこれよりやや小さい。体色は橙黄色だが、体表面が白粉で覆われているため、外観は灰色に見える。前翅は紫褐色で不整形の白紋がある。成虫は極めて小さく、頻繁に飛翔するため、野外では肉眼での識別が難しいが、チャの新葉付近を丁寧に観察すると発生を確認できる。
2)卵は長さ約0.2mmの曲玉状で、短い柄がある。
3)孵化幼虫は淡黄色で、定着すると光沢のある黒色になる。蛹は長さ1mmの小判形で、体色は光沢のある黒色、周囲が白色ロウ物質に縁取られている。周囲と背面に多数の刺毛を有する。
 
7.生態
1)京都府の調査によると、チャでの本種の成虫の発生は年4回で、3齢幼虫や蛹で越冬する。成虫の発生盛期は越冬世代が5月中旬、第1世代が7月上旬、第2世代が8月中下旬、第3世代が10月中下旬である。成虫の寿命は約4日と短く、新葉の葉裏に産卵することが多い。孵化幼虫は分散せず、群生することが多い。
2)成虫は新葉に止まっていることが多いが、幼虫・蛹は古葉に多い。
3)カンキツでは乾燥気味の年にいくぶん発生が多いとされる。
3)中国のチャにおける多発地域からの報告では、暖冬年には越冬世代の生存率が高まり、翌春の発生が多いとの報告がある。また、殺虫剤の過剰使用によるリサージェンスの発生も指摘されている。
 
8.被害の特徴
1)京都府の調査では、成虫および幼虫による葉の吸汁加害と、幼虫・蛹の分泌物によって夏以降にすす病が発生する。また、一番茶摘採期に成虫が多発すると、収穫作業者が吸引するなどして、不快害虫ともなる。
2)中国では、チャで多発した場合には萌芽停止、樹勢衰弱、大量落葉などの被害が報告されている。
 
9.寄主植物
 本種の主要な寄主植物はカンキツ類とされており、この他ブドウ、カキ、ナシ、ビワ、バラ等多くの樹種に寄生する。本種のチャへの寄生は、我が国では京都府、滋賀県以外では報告されていないが、中国、台湾では地域によっては重要害虫の一つとされている。
 
10.防除対策
1)本種の卵および若齢幼虫は微小であり、また葉裏に産卵・寄生するため、発見が遅れ、成虫やすす病が発生するまで気づかないことが多い。そのため、定期的に茶園を観察し、早期発見に努める。
2)放任茶園は本種の発生源になる可能性が高いので、適切な管理方法を工夫し、発生拡大を抑える。
3)密度が高くなると、すす病や一番茶摘採時期の成虫が多発する。耕種的防除対策として、茶園の風通しをよくし、卵・幼虫・蛹の寄生葉の除去に努める。本種は卵から蛹までの期間は葉裏で固着生活することから、整せん枝の時期や深さを工夫することで、効果的に寄生葉を除去し、次世代の密度抑制を図る。
4)薬剤で防除する場合には、効果の高い若齢幼虫発生期に、チャの本種に登録のあるアプロード水和剤またはハチハチ乳剤を散布する。
5)本種の天敵として寄生蜂やヒメテントウ類など数種が知られている。カンキツで本種の 密度抑制に効果を挙げた導入天敵のシルベストリコバチは、京都府の茶園でも確認されている。また、本県で採集した蛹からも低密度であるが寄生蜂(未同定)の羽化を確認している。寄生を受けた場合には、老熟幼虫や蛹の背中に丸い脱出孔が開いている。
 
11.謝辞
 本種を同定して頂いた、関西大学の宮武頼夫博士に厚く御礼申し上げる。
 
12.参考資料                              
 山下・林田(2006)植物防疫.60:378-380.
 大久保(2005)原色果樹病害虫百科カンキツ・キウイフルーツ:401-407.
 廖ら(2005)茶叶.31:246-247.