平成19年6月1日
奈良県病害虫防除所
近年、県内においてイチゴ炭疽病の発生が多くなっています。本病は一旦発病すると防除が困難であるため、下記の点に留意して、予防に重点を置
いた耕種的防除に加えて、薬剤による防除を徹底して下さい。
1.近年の発生状況
ここ3年間は本
病の発生が多くなっています(表1参照)。特に昨年度は過去5年間で最も被害が大きく、発生圃場率63.6%でした。保菌親株だけでなくイチゴ残さや圃場
周辺の雑草などでも本病の菌密度が高くなっている可能性があるため、注意が必要です。
表1 イチゴ炭疽病の発生状況
H14 H15 H16 H17 H18
発病圃場率(%) 10.0 18.2 40.0 30.0 63.6
発病株率(%) 0.1 0.3 0.8 0.1 4.5
9月下旬の本圃での調査
2.防除対策
(1)耕種的防除
1)親株の早期除
去
親株は外見は
健全であっても保菌している可能性があります。そのため、第1子苗が確保できたら、未発病の親株も必ず除去します。
2)発病株の早期発見と除去
@発病初期に は、小葉に薄ずみ色の汚斑状病斑(
写真1)やランナー・葉柄に楕円形でくぼみのある黒褐色の病斑(
写真2)を形成します。このような症状が発生していない
かこまめに観察します。
A発病を確認し
た場合には、発病株およびその周辺株を除去します。露地栽培等で発生が広がる恐れがある場合はシートやビニールで密閉することで被害の拡大を防ぎます。
B発生圃場では
周辺に胞子が飛散している可能性があるので、発病株の処分後は必ずゲッター水和剤等の治療剤で防除します。
3)株整理
8月以降に育
苗床において多発するほ場がよくあります。これは、苗が混み合うことでムレによって発病が助長されることや薬液が株全体にかかりにくくなるためと考えられ
ます。必要苗数が確保できたら、必ずランナー整理や余分な株を除去し、風通しをよくします。
4)適正なかん水
勢いの強いか
ん水は胞子を飛散させ発病を助長しますので、跳ね返りの少ないよう丁寧にかん水します。
5)適正な施肥
窒素過多にな
ると苗が軟弱徒長して本病の発生を助長しますので、多肥栽培とならないように注意します。
6)雨よけ栽培と
かん水方法の改善
雨よけ育苗は
雨滴による胞子飛散を防ぐため炭疽病防除に有効です。さらに、底面給水や点滴かん水と組み合わせることでより防除効果が高まります。まだ、導入されていな
い方には今後ご指導ください。
(2)薬剤防除
1)薬剤の選択
アントラコー
ル顆粒水和剤、ジマンダイセン水和剤などの予防剤を主体とした定期的な散布を行います。ただし、発生初期や8月以降には菌密度が高くなり感染リスクが高ま
るため、予防剤とゲッター水和剤などの治療剤とを交互に散布します(表2参照)。
2)散布間隔
雨よけ育苗で
は1〜2週間間隔での散布を行います。ただし、露地育苗や発病後では散布間隔をより短くする必要があります。
3)降雨前後の散
布
降雨時には炭
疽病の胞子飛散が多くなるため、降雨前後には株全体に薬液がかかるように丁寧に散布します。
4)薬剤耐性菌の
発生
県内ではアミ スター20フロアブル、ベンレート水和剤で耐性菌の発生を確認しており、これら薬剤は効果が期待できないので使用を控えます。
表2 主なイチゴ炭疽病の防除薬剤 (平成19年度6月1日現在)
|
薬剤名
(商品名) |
希釈倍率
|
使用時期 |
本剤の使用回数 |
備 考
|
アントラコール
顆粒水和剤 |
500倍
|
仮植栽培期
|
6回
|
予防剤
耐雨性高い |
ジマンダイセン
水和剤
|
600倍
|
仮植栽培期
但し収穫76日前まで |
6回
|
予防剤
耐雨性高い |
セイビアーフロアブル20 |
1000倍 |
収穫前日まで
|
3回 |
予防剤 |
ベルクート水和
剤
|
1000倍
|
育苗期
(定植前) |
5回
|
予防・治療剤 |
ゲッター水和剤 |
1000倍 |
定植前日まで
|
3回 |
治療剤 |
バイコラール水
和剤
|
2500倍
|
育苗期
|
3回
|
治療剤
|
|
注1:各薬剤に対する予防・治療剤の表記または耐雨性の評価は奈良県農業総合センターの試験結果によるもの。
注2:ゲッター水和剤はトップジンM水和剤と同一成分を含むため使用回数
には注意する。