平成19年度病害虫発生予察特殊報 第1号
                                                                              平成19年9月3日
                                                                              奈良県病害虫防除所
1.病害虫名 タバココナジラミ バイオタイプQ
  学名   Bemisia tabaci Gennadius Q biotype
 
2.発生を認めた作物名 トマト、ミニトマト、ナス
 
3.特殊報の内容 本県における初発生を確認
 
4.発生地域 県中部地域
 
5.発生経過
1)平成18年秋に広陵町のナス、トウガラシ等でタバココナジラミ類が多発しているとの報告があった。同年11月10日に当該地域のミニトマト生産施設から採集したサンプルを独立行政法人野菜茶業研究所の本多健一郎博士に同定依頼し、ミトコンドリアCOT領域の塩基配列からタバココナジラミバイオタイプQとバイオタイプBが混発していることを確認した。
2)その後、広陵町での発生は終息したものの、県内各地での発生状況を調査したところ、平成19年2〜7月に磯城郡のトマト、ナスの施設栽培(各1地点)でも相次いでタバココナジラミ類の多発を確認し、PCR−RFLP法により、いずれもバイオタイプQと同定された。

6.タバココナジラミ類のバイオタイプ
1)タバココナジラミは世界各地に分布し、地域によって生態的に異なる多くのバイオタイプを含む種複合体とされている(上田2007)。現在奈良県に分布するバイオタイプは、スイカズラなどに寄生する土着のバイオタイプJpLと、従来シルバーリーフコナジラミと呼ばれていた外来種のバイオタイプB、そして今回確認されたバイオタイプQの3つである。
2)前記3つのバイオタイプは、現時点では外部形態による識別が不可能であり、PCR法などの遺伝子解析によってのみ判別される。バイオタイプJpLはスイカズラを主な寄主とし、殺虫剤の効果が高いのに対し、バイオタイプBとQは多種の野菜、花き類を加害し、殺虫剤抵抗性が発達している。
 
7.形態
1)成虫は体長約0.8mmで、体色は淡黄色、翅は白色である。蛹は体長0.7〜1.0mm、淡黄色から黄色である。
 
8.分布
1)原産地は、イベリア半島のスペイン・アルメリア地方と考えられ、地中海沿岸地域、北米(アメリカ合衆国、メキシコ)、南米(グアテマラ)、東アジア(中国、韓国、日本)に分布することが確認されている。わが国ではすでに九州から東北地方の35都府県で分布が確認されており、野菜類の重要害虫となっている(上田2007)。
 
9.生態と被害
1)寄主範囲は非常に広く、ナス科(トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、シシトウ、トウガラシ)、ウリ科(キュウリ、メロン)、ユリ科(アスパラガス)、キク科(キク、ガーベラ)、トウダイグサ科(ポインセチア)など、多種の野菜、花き類で発生が確認されている。
2)発育期間等の詳細な生態は不明だが、加害生態はバイオタイプBと酷似する。成虫は作物の生長点付近の新葉に集合して、主に葉裏に産卵する。孵化直後の幼虫は葉面上を多少徘徊し、2齢以降は葉裏に固着して発育する。
3)多発すると吸汁加害による生育阻害や排泄物によるすす病が発生するほか、トマト黄化葉巻病TYLCV(本県では未確認)を媒介する。バイオタイプBに見られるようなトマト果実の着色異常やカボチャの茎葉、果実の白化は生じないが、キュウリ、メロンに黄化症状を引き起こす。
4)農業総合センター内で飼育している系統の発育期間は、25℃条件で産卵から羽化までおおむね16日程度である。また奈良県内での露地越冬の可能性は低いと考えられる。

10.防除対策
1)圃場への侵入ルートは、苗からの持ち込みもしくは圃場外の他作物、雑草からの飛び込みである。そのため、自家苗生産を行う場合には圃場周辺での発生に注意し、苗に発生が見られた場合には防除を徹底する。また、購入苗を使用する場合には、コナジラミの寄生に注意し、特にTYLCV感染が疑われる苗は使用しない。
2)圃場周辺の除草を行って、発生源を除去する。
3)栽培終了後にはハウスを閉め切って外部への分散を防止する。また栽培終了後の残さをそのまま圃場外に放置せず、古ビニルで被覆するなどして適切に処分する。
4)施設開口部を0.4mm以下の目合いのネットで被覆すると、侵入防止に有効である。
5)タバココナジラミ類のバイオタイプは形態から識別できないので、薬剤による防除を行う場合には、感受性低下が最も著しいバイオタイプQに対する有効薬剤を中心にした薬剤選択を行い、異なる系統の薬剤をローテーションして使用する。バイオタイプQは、合成ピレスロイド剤や、従来コナジラミ類に効果の高かった、ネオニコチノイド系剤の一部、チェス、ラノーに対する感受性の低下が報告されている。
6)薬剤防除を行う場合には、「タバココナジラミ類」もしくは「コナジラミ類」に対する登録薬剤が使用できる。表の殺虫剤感受性結果を参考に、作物ごとの登録条件に留意して防除を行う。
7)周辺での発生が多く、栽培初期からの発生が懸念される場合には、定植時にネオニコチノイド系粒剤を処理する。
8)サンマイトフロアブルは本種に対して効果が高いが、ナスでは薬害発生の懸念があるので、使用を自粛する。
9)感受性検定で効果が高い薬剤でも、付着量が低下すると効果が急減する。本種は主に葉裏に寄生するので、付着むらが生じないように、葉裏を狙って丁寧に散布する。
10)気門封鎖剤を使用する場合は、5〜7日間隔で複数回防除する。
 
11.参考文献
 上田(2007)植物防疫.61:309-314. 
 

   表.奈良県におけるタバココナジラミバイオタイプQの殺虫剤感受性
                          (奈良県病害虫防除所調べ)
    薬 剤 名
 
希釈倍率
 
    補正死虫率(%)
 卵期処理 若齢幼虫期処理
ネオニコチノイド系
 モスピラン水溶剤
 ベストガード水溶剤
 アクタラ顆粒水溶剤
 アルバリン顆粒水溶剤

2000
1000
2000
2000

100
  98.9
  79.7
100

  71.8
  82.0
   −
  70.2
合成ピレスロイド系
 アグロスリン乳剤

2000

   8.3

   −
マクロライド系
 アファーム乳剤
 コロマイト乳剤

2000
1500

  93.9
100

  66.4
 100
スピノシン系
 スピノエース顆粒水和剤

5000

  90.6

  62.1
MET1系
 サンマイトフロアブル
 ハチハチ乳剤
 アプロードエースフロアブル*

1000
1000
1000

100
100
  91.5

 100
  97.5
  90.7
キノキサリン系
 モレスタン水和剤

1500

  98.1

 100
IGR剤
 アプロード水和剤

1000

  32.2

   −
ピリジンアゾメチン系
 チェス水和剤

3000

  39.5

   −
気門封鎖剤
 粘着くん液剤
 オレート液剤

 100
 100

   −
   −

  94.7
  98.6
 インゲンリーフディスク法で2?L/cm2処理し、3齢幼虫期に生死判定した。
 *アプロードエースはアプロードとダニトロンの成分の混合剤