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                  平成5年度 病害虫発生予察特殊報 第1号

                                  平成6年1月25日
                                  奈良県病害虫防除所
 病害虫名:シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua Hubner)

1.特殊報の内容

 1)発生地域  橿原市、高市郡

 2)発生作物  ネギ、スターチス

 3)発生経過
  本種は東南アジア,中国,ヨ−ロッパ,北アメリカ,アフリカ等広く分布して昭和33年頃
 に九州を中心にてんさい(ビ−ト)で被害をもたらし、その後大きな被害がありませんでした。
 しかし、昭和55年頃から九州,四国でネギに被害がみられ、西日本の二十数府県で発生が確
 認され、最近では和歌山,大阪でのスイカ,エンドウ,ネギ,宿根カスミソウ,カ−ネ−ショ
 ン,キクなど多くの野菜花き類での被害が報告されていました。
  本県では、性フェロモンにより成虫発生が確認されていました。これまで幼虫による作物へ
 の被害は見受けられませんでした。平成5年9月下旬に露地栽培のネギとスタ−チスの加温栽
 培圃場でヨトウガ類の被害があり,飼育による成虫確認の結果,シロイチモジヨトウでありま
 した。
  本県での被害事実の報告は初めてであり特殊報を発表します。

 4)発生面積  6.5ha(橿原市4.0ha,高市郡2.5ha)

 5)被害状況  ネギでは葉身が食害され,先端部を中心にカスリ状となる。
         スターチスでは,地際部の葉が裏面から食害され表皮面を残しスカシ状とな
        る。ひどい株では花数が減少することもある

2.防除対策
 1)耕種的防除
  i)寒冷紗被覆をして,成虫侵入を遮断し作物への産卵防止を図る。雨除けや施設栽培ではサ
   イドに寒冷紗被覆を行うとよいでしょう。
  ii)厳寒期の露地条件では成虫や卵,若・中齢幼虫での越冬は不可能で,蛹や老熟幼虫が土
   中で越冬します。したがって,寒気に暴露することは,越冬密度を低下させるのに効果的
   です。

 2)性フェロモン利用による防除

  ヨトウコン−Sを10a当たり露地で100〜500本,ハウスでは500〜700本を細
 い棒や天井部針金に巻付け設置します。性フェロモン物質の放散によって,成虫の交尾を阻害
 し,未受精卵を増加させて密度を低下させる手法です。したがって,露地では,1ha程度以
 上の面積で設置することが必要です。発生初期からの設置が望ましく,施設内では有望な防除
 手段です。

 3)薬剤防除
  ハスモンヨトウやヨトウガと比較すると有効薬剤が特異的で、一般には薬剤が効きにくいと
 されています。他のヨトウガ類と同じように中・老齢幼虫となると極度に防除効果が低くなる
 ので,若齢幼虫期間での防除が大切です。

 4)防除薬剤と農薬安全使用基準(ネギの場合)

薬 剤 名 急性
毒性
魚毒性 使用濃度
希釈倍率
農薬安全使用基準
収穫前日数 使用回数
[合成ピレスロイド剤]
 アグロスリン乳剤 1,000倍 7日前 5回以内
 アディオン乳剤 2,000倍 7日前 3回以内
 トレボン乳剤 1,000倍 21日前 2回以内
[脱 皮 阻 害 剤]
 アタブロン乳剤 2,000倍 21日前 3回以内
 ノ−モルト乳剤 2,000倍 7日前 2回以内
[カ−バメ−ト剤]
 ラ−ビン水和剤 1,000倍 21日前 2回以内

 合成ピレスロイド剤は薬剤抵抗性発達や天敵等のバランスを破壊しやすいので1作期2回以内
で1カ月以上あけて使用すること。脱皮阻害剤は若齢幼虫期に使用すること。

3.生 態

 多くの野菜・花き類を加害し,被害が大きい作物はネギ,ホウレンソウ,シュンギク,ニンジ
ン,エンドウ,ヤマノイモ,カーネーション,宿根カスミソウ,キク,ユリなどが報告されてい
ます。
 幼虫はふ化後5齢を経過し土中で蛹となります。幼虫の体色は1・2齢期は黄緑色,4・5齢
は濃緑色〜褐色と変化があります。特徴はハスモンヨトウのように弱齢幼虫期は集合しています
が,胸部に1対の黒色楔紋がありません。また,幼虫はシャクトリ状に歩行しないことでヨトウ
ガ幼虫と区別できます。
 成虫は大阪府下では,6月中旬から11月下旬まで成虫の発生がみられ,5世代程度繰り返し
発生すると見られています。とくに,8〜9月の発生が多く,卵から成虫までの日数は,30℃
で平均18.3日,25℃で平均28.9日,20℃で平均55.1日を要し,15℃では生存
しなかった記録もあります。また兵庫県では老熟幼虫と蛹が露地で越冬することが確認されてい
ます。したがって本県でも夏期以降での発生が,被害となるので注意を要します。