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             平成6年度病害虫発生予察特殊報(第1号)
                               平成6年10月5日
                               奈   良   県
1 病害虫名  マメハモグリバエ {学名:Liriomyza trifolii (BURGESS)}

2 発生確認の経過
 1)本種は平成2年に静岡県と愛知県で発生が確認され、近畿では平成3年に和歌山で確認され
  た後、兵庫、大阪など各府県で発生確認されている。本県では、平成5年秋農林水産省神戸
  植物防疫所と県内合同調査を実施したが、その時点では本種の発生は確認されなかった。
 2)平成6年8月下旬、五條市、吉野町、田原本町などの夏季ナスで、ハモグリバエの食害痕が
  発見され、農業改良普及所から病害虫防除所に診断依頼がなされた。幼虫形態、葉への食害
  痕、蛹の尾部突起から、従来のナスハモグリバエと異なると思われたので、農林水産省神戸
  植物防疫所に種類確認の同定依頼を行ったところ、本県未発生のマメハモグリバエであるこ
  とが明らかとなった。
 3)五條市内ナス栽培での発生状況は、五條市御山町、野原町ではやや多く、市内全域のナス圃
  場で発生がみられた。栽培者の観察では7月下旬頃から葉への食害痕が見受けられ、8月中
  旬以降に急増している。また、吉野町六田、田原本町八田でもほぼ同時期の発生で、発生地
  域は今後精査とともに拡大することが予想される。
 4)ナス、トマトでは、葉に対して幼虫食害痕がエカキ状に残るものの、果実への直接加害は無
  く、極端な多発で生育抑制がない限り直接の被害には至らないと予想される。しかし、キク
  やシュンギクなどは直接被害があるので、今後の発生動向が注意される。

3 形 態
 卵 :長さ0.2mm、楕円形で半透明のゼリー状をしている。
 幼虫:黄色または淡褐色のウジで、老熟幼虫では長さ2.5mmとなる。後気門瘤の数より近縁種
   のナスハモグリバエやアブラナハモグリバエと見分けができる。
 蛹 :長さ2mmで、褐色の俵状をしている。尾部後気門瘤の数は幼虫と同じ。
 成虫:長さ2mm程度で頭部、胸部、腹部の腹面、脚の大部分は黄色で胸部及び腹部の背面は黒
   く光沢がある。透明の2枚の翅があり、近縁種のナスハモグリバエ、アブラナハモグリバ
   エとよく似て肉眼的区別はできない。

4 生態及び被害
 1)卵は葉内部に産みつけられ肉眼では見えない。1雌あたりの産卵数はキクなど好適植物でお
  よそ300〜400個、トマトでおよそ50個である。25度で3日後にふ化する。
 2)幼虫は葉に潜ったまま葉肉を食害してトンネルをつくるため、エカキムシと呼ばれる。ふ化
  後3〜4日後に老熟幼虫となる。幼虫は葉の外に出て地表に落下し蛹化する。一部の個体は
  葉上で蛹化することもあるが、大部分は地表面と地中の浅い所やマルチの上などで蛹化する。
 3)蛹は8〜11日後に羽化し成虫となる。雌成虫は産卵管で葉に傷状の小穴をあけて、滲出液を
  なめて餌とする。産卵管で穴をあけて葉内に産卵する。
 4)1世代の期間が短く、卵から成虫になるまでは25度で約16日、30度で約14日である。発育
  低温限界は約10度で、施設内の越冬は可能であるが露地での越冬はかなり困難とれされてい
  るが、蛹態での越冬が考えられる。年間に約10世代以上の発生回数が可能とされている。
 5)被害植物では、幼虫食痕、成虫の摂取痕や産卵痕で、葉の外観が損なわれる花き類や葉菜類
  は被害が大きい。稚苗時に幼虫が寄生すると葉柄や茎に入り枯死させる。果菜や根菜では多
  数の幼虫が寄生して生育を遅延させ収量低下に到る場合もある。

5 寄主作物
 1)マメ科、キク科、ナス科、セリ科、ウリ科、アブラナ科など多くの植物に寄生する。外国で
  は21科、120種以上の植物に寄生することが知られている。
 2)日本で被害の多いのは施設栽培のキク、ガーベラ、宿根カスミソウ、トルコギキョウ、シュ
  ンギク、チンゲンサイ、トマト、ナス、キュウリ、メロン、セルリーなどがあげられている。
 3)イネ科、バラ科(イチゴなど)には寄生しないとされている。

 類似種との簡便な見分け方 (農林水産省横浜植物防疫所による)

  マメハモグリバエ
  (L.trifolii)
1、眼縁部はほとんど黄色。
2、胸部は光沢のない黒灰色。
3、触角は黄色。
4、脚は腿節が黄色、他は褐色がかる。
5、幼虫の後気門瘤は3個。
  ナスハモグリバエ
  (L.Bryoniae)
1、眼縁部はほとんど黄色。
2、胸部は光沢のある黒色。
3、触角は黄色。
4、脚は腿節が黄色、他は褐色がかる。
5、幼虫の後気門瘤は7〜12個。
  アブラナハモグリバエ 
  (L.brassicae)
1、眼縁部はほとんど黄色
2、胸部は光沢のない黒灰色
3、触角は黄色。
4、脚は腿節が黄色、他は褐色がかる。
5、幼虫の後気門瘤は3個。

6 防除対策
  本種は北アメリカ原産で、アメリカ、ヨーロッパなどの施設栽培の重要害虫に報告されてい
 る。日本で確認された時から薬剤に強く、広い寄主植物が報告されている。施設内では周年発
 生が可能で、発生を見た東海近畿の各府県では難防除害虫となっている。下表に示すように、
 現在有効と考えられる薬剤も限定しており、登録薬剤が少ないことから、耕種的防除と併用す
 ることが重要となっている。

 耕種的防除手段
 1)多発生してからでは防除効果が劣るので早期発見に努め有効な防除を図る。
 2)収穫後の茎葉は、次の発生源になるのでビニル被覆を行い、出来れば焼却処分とする。
 3)発生した後作には、定植まで15〜20日あけて、土中の繭を羽化させ成虫を絶食で死滅させる
  期間をおくとよい。
 4)成虫侵入を防ぐため、施設の出入口やサイド換気口などの開口部は寒冷紗(網目1mm程度:
  クレモナ#1000) を張る。
 5)施設内部や周辺の雑草も寄主となる植物があるので、施設内除草はもとより、他の作物を混
  植することを避け、圃場衛生に努める。
 6)苗は定植前に充分調べ食害痕のあるものは定植しない。また、既発生地からの苗移動に注意
  する。
 7)本種が明るいところを好むので、施設の南側や通路側も重点的に防除する。
 8)成虫は黄色によく誘引されるので、黄色粘着トラップで防除効果や発生状況をモニタリング
  することが出来る。
 9)マルチ栽培ではマルチ面にも薬剤を散布して蛹化前の老熟幼虫防除を行う。
 10)露地栽培では発生圃場での連作をやめ、水田にしてもどして蛹などの密度低減を図る。

 防除薬剤の現状
 本種は新害虫のため、防除薬剤は登録取得のため特別試験を実施中であるため、登録農薬も少
ない。これまでの報告では下記の薬剤が比較的有効とされている。ただし、作物に対する登録、
薬害などを参考として農薬安全使用基準を遵守しながら、耕種的防除と併せて利用する。

           表 マメハモグリバエに有効な殺虫剤

殺虫剤名 幼虫への
効果程度
マメハモグリ
バエに登録あり
作物登録があり
同時防除が可能
薬害の恐れが
ある作物
カルホス乳剤 キク、ガーベラ   
カスケード乳剤 キク   
オルトラン粒剤 キク、トマト、ナス   
ジメトエート粒剤 トマト、ナス 定植時灌水注意
オルトラン水和剤 トマト、キク、ナス   
パダン粒剤 トマト、ナス
パダン水溶剤 トマト、キク、ナス
エビセクト水和剤   

                       (西東ら、1991を改変)