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           平成11年度病害虫発生予察特殊報第1号

                             平成11年6月21日
                             奈良県病害虫防除所

1.病害虫名     キクえそ病、トウガラシ黄化えそ病など

2.発生作物     キク、トウガラシ、ジニア

3.病原
 (1)病原名     トマト黄化えそウイルス(Tomato spotted wilt virus:TSWV)
 (2)ウイルスの形態 被膜を持つほぼ球状の粒子(直径約80nm)
 (3)感染植物    キク科、ナス科、マメ科、ウリ科、アカザ科、リンドウ科、ゴマ科等
           650種以上の広範囲の植物に及ぶ

4.特殊報の内容  キク、トウガラシ,ジニアでの本県初発生を確認

5.初発生の確認時期  キ ク :平成11年5月
           トウガラシ:平成11年5月
            ジニア :平成11年6月

6.発生場所      キ ク :北葛城郡新庄町
           トウガラシ:桜井市
            ジニア :橿原市,宇陀郡榛原町

7.発生確認の経過と発生状況
 (1)キク
   1)平成11年5月、新庄町の露地キク巡回調査で、出蕾期の中位葉に黄化とえそ斑点を伴
    う株が7aの圃場で発生しているのが確認された。
   2)発病株をモノクローナル抗体によりDIBA法で検定したところ、TSWVの感染が
    確認された。
 (2)トウガラシ
   1)平成11年5月、桜井市のトウガラシ育苗施設において、モザイクとえそを伴う生育不
    良株が発生した。
   2)発病株をモノクローナル抗体によりDIBA法で検定したところ、TSWVの感染が
    確認された。
 (3)ジニア(ヒャクニチソウ)
   1)平成11年6月,橿原市および榛原町の鉢花育苗施設において,開花期のジニアの上位
    葉が黄化し,退緑輪紋を伴う株が発生した。
   2)発病株をモノクローナル抗体によりDIBA法で検定し,また判別植物へ接種したと
    ころ、TSWVの感染が確認された。
 (4)すでに発生が確認されている作物等
   トマト(1972年),ピーマン(1972年),ダリア(1975年)

8.病徴
 (1)キク
   葉では退緑やえそ斑点を伴う黄化が生じ、時に退緑輪紋やえそ輪紋を生ずる。茎にはえそ
  条斑を生じる場合があり、偏平,わん曲も認められる。生育後期の出蕾期から開花期にかけ
  て病徴が現れやすい。
 (2)トウガラシ
   生長点付近の葉では軽いモザイクや奇形を生じ、小型化する。成葉には、不鮮明な退緑輪
  紋やえそ斑点を生じる。茎には、褐色のえそを生じる。果実にも軽いモザイクや奇形を生じ、
  果面や果梗に褐色のえそを生じる。発病の激しい株では新芽が枯死する。
 (3)ジニア
   出蕾開花期の頂芽やわき芽の上位葉が黄化し,退緑斑や退緑輪紋を生ずる。

9.伝搬方法
 (1)ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、ネギアザ
   ミウマ,ダイズウスイロアザミウマなどのアザミウマ類によって伝搬される。幼虫のみが
   ウイルスを吸汁獲得し、成虫によってウイルスが永続伝搬される。経卵伝染はしない。特
   にミカンキイロアザミウマは他の種に比べて媒介能力が高い。
 (2)汁液接種では伝搬可能であるが、ウイルスが不安定であるため管理作業による接触伝染
   の可能性は少なく、アザミウマ類による伝搬と栄養繁殖による伝搬が主と考えられる。土
   壌伝染、種子伝染はしない。

10.防除対策
 (1)発病株はすみやかに除去し,焼却するか土中に埋める。
 (2)媒介昆虫であるアザミウマ類の防除を徹底する。薬剤による防除だけでなく,以下の耕
   種的防除対策を併せて行う。
   ・本圃では,出入り口やハウスサイド等の開口部には防虫ネット(0.8mm目以下)を張り,
    アザミウマ類の圃場内への侵入を防ぐ。また紫外線カットフィルムや反射マルチ資材を
    利用すると忌避効果がある。
   ・施設では栽培終了時に7〜10日間の蒸し込み処理を行う。
   ・親株や苗で感染すると被害が大きくなるので,苗床等では防虫ネットを利用するととも
    に,薬剤防除を行い,苗による本圃への持ち込みに特に注意する。
 (3)キク等の栄養繁殖性植物では、親株は無病のものを利用する。
 (4)圃場内あるいは周辺雑草は,アザミウマ類が飛来・繁殖し,ウイルス病の発生源となる
   ため,早めに(開花までに)除草する。
 (5)TSWVの寄主範囲は極めて広いので、施設内へは生産に関係のない野菜苗や花き類を
   持ち込まない。