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平成12年度病害虫発生予察特殊報(第1号)
平成12年11月15日
奈良県病害虫防除所
1 病害虫名 トマトハモグリバエ
(学名:Liriomyza
sativae BLANCHARD)
2 発生を認めた作物名 キュウリ、スイカ、ナス
3 特殊報の内容 本県における初発生を確認
4 発生地域 桜井市、田原本町
5 発生経過
1)本種は平成11年に山口県、京都府、沖縄県で発生が確認され、近畿では平成12年8月に
大阪府、9月に兵庫県で発生が確認されている。
2)平成12年9月16日に桜井市のスイカ、9月26日に田原本町の家庭菜園のキュウリ、9
月27日に同町の夏秋ナスでハモグリバエの多発が見られ、マメハモグリバエと同様の激しい
被害が認められた。幼虫の後気門を検鏡したところ、いずれも3個の小瘤が確認された。羽化
した成虫を、京都府立大学名誉教授 笹川満廣博士に同定して頂いたところ、本県未発生のト
マトハモグリバエであることが確認された。
6 形 態
幼虫:淡黄色のウジ状で、3齢幼虫の体長は約3mm。後気門瘤は3個で、マメハモグリバエと共
通する。
蛹 :長さ1.3〜2.3mm程度で、黄褐色の俵状をしている。
成虫:体長約1.3〜2.3mmで、マメハモグリバエ、ナスハモグリバエとよく似ており、肉眼
での識別はできない。実体顕微鏡による頭部の観察が必要である。本種の頭部の外頭頂剛毛
の着生部は黒色、内頭頂剛毛の着生部は黒色部と黄色部の境界域で、マメハモグリバエ、ナ
スハモグリバエの同部は黄色である。その他、アブラナハモグリバエやヨメナスジハモグリ
バエともよく似ているが、これら2種はナス科やウリ科には寄生しない。正確な同定のため
には、雄の交尾器による確認が必要である。
7 生態及び被害
1)卵は、雌成虫が産卵管で葉に開けた穴の内側に産みつけられる。幼虫は葉に潜ったまま葉肉
を食害し、発育すると葉の外に出て地表に落下し蛹化する。葉のエカキ症状や蛹化の方法はマ
メハモグリバエとよく似ており、区別は困難である。
2)1世代の期間はマメハモグリバエに比べてやや長く、卵から成虫になるまでは20℃で約
27日、25℃で約18日、30℃で約14日である。発育低温限界は9.6℃。
3)休眠性については、低緯度地域では露地でも周年発生し、マメハモグリバエと同様に休眠し
ないと考えられるが、高緯度の中国浙江省温州(北緯28度)の露地では蛹で休眠に入ったと
の報告がある。日本での休眠性は不明である。
4)高温による半数致死温度は卵・幼虫では51〜53℃、蛹・成虫では41〜44℃と温度耐
性は高い。
8 寄主作物
1)ウリ科、マメ科、ナス科、アブラナ科、キク科など、多くの植物に寄生する。中国では14
科69種に寄生することが報告されている。
2)ウリ科、マメ科、ナス科に被害が多く、メロン、キュウリ、カボチャ、トマト、ジャガイモ、
トウガラシ、インゲンなどが好適作物として挙げられている。
9 防除対策
本種に対する登録薬剤はないことから、作物に登録のある薬剤を使用して他害虫との同時防除を
行う。防除薬剤、耕種的防除等については当面のところマメハモグリバエに準ずる。
耕種的防除方法等
1)収穫後の茎葉は次の発生源になるので、ビニル被覆を行うか、焼却処分する。
2)発生圃場では、後作まで何も植えずハウスを密閉し蒸し込んで、土中の蛹を羽化させ成虫を
絶食で死滅させる期間として20日以上あける。
3)成虫侵入を防ぐため、施設の出入口やサイド換気口などの開口部は寒冷紗などのネット(網
目0.6〜1mm目合い)を張る。
4)施設内部や周辺の雑草にも寄主となる植物があるので、施設内除草はもとより、他の作物を
混植することを避け、圃場衛生に努める。
5)苗は定植前に十分調べ食害痕のあるものは定植しない。また、既発生地からの苗移動に注意
する。
6)マルチ栽培ではマルチ面にも薬剤を散布して蛹化前の老熟幼虫防除を行う。
7)露地栽培では発生圃場での連作をやめ、水田にもどして蛹などの密度低下を図る。
10 謝辞
本種の発生確認にあたり、同定及び情報提供を頂いた京都府立大学名誉教授 笹川満廣博士に
厚くお礼申し上げる。
11 参考資料
岩崎暁生ら(2000):植物防疫54(4)(日本植物防疫協会発行):12〜17:日本におけるトマト
ハモグリバエ(Liriomyza
sativae BLANCHARD)の新発生