病害虫発生・防除メールサービス(臨時情報)

(平成22年1月25日発信)


○先日実施したアンケートの中で、「農薬を使わない防除方法を教えて欲しい」との要望が多かったので、それに関する情報を提供します。

はじめに
 農作物に発生する病害や害虫を防除する方法としては、耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除などがあります。
 農薬を使った防除方法は、ほとんどの場合化学的防除にあたります。
 「農薬を使わない防除法」は、耕種的防除、物理的防除、生物的防除などになります。

1 耕種的防除
 栽培方法を工夫することで、病害虫を防除(予防)する方法。
【具体例】
◇病害虫に対する抵抗性の品種や台木を使う。
 (なすやきゅうりなどの果菜類では、接ぎ木苗を使用することが一般的)
◇同じ畑で同じ作物を続けて栽培しない(連作障害の回避) 下記参照
◇雨よけをして、雨滴による病気の感染を防ぐ。
◇地面にマルチを敷き、泥はねによる病気の感染を防ぐ。
(多くの病害が、雨をきっかけに伝染する)
◇土壌のpHを病害が出にくい値に調整する。
(例)アブラナ科の根こぶ病は、pHが高いと発生しにくい。
◇温度や湿度を、病害が出にくい条件で管理する。
(例)灰色かび病等多くの病害は低湿度では発生しにくい。
◇除草を徹底して、病害虫の発生源をなくす。
(水田の畦畔の草刈りを行うと、斑点米カメムシの被害が減る)
(注)後述の物理的防除や生物的防除も含めて「耕種的防除」ということがある。

【連作障害とは】
 同じ畑で同じ作物を作り続けているときに発生しやすい生育障害のこと。
 連作障害の中には原因不明のものもあるが、土壌中の病原菌やウイルスが徐々に増加することによって起きるものが多い。
 同じ作物でなくても、近縁(同じ科)の作物を連続して栽培することでも起こる。
 連作で増加する病気には、以下のようなものがある。
◇ナス科(なす、トマト、ミニトマト、ピーマン、とうがらし類、じゃがいも等)
 青枯病、半身萎ちょう病、萎ちょう病等
◇ウリ科(きゅうり、かぼちゃ、すいか、メロン、へちま、ひょうたん等)
 つる割病、つる枯病等
◇アブラナ科(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、葉ぼたん、かぶ、はくさい、こまつな、大阪しろな、みずな、だいこん等)
 根こぶ病(だいこんはかかりにくい、栽培期間の短いこまつな等では問題になりにくい)、萎黄病等
◇マメ科(特にえんどう、さやいんげん、落花生、そらまめ)、サトイモ科(さといも、ずいき)などは、特定の土壌病害とは関係なく連作すると生育が悪くなる作物である。

【連作障害回避のために】
◇ナス科、ウリ科、サトイモ科は、次に栽培するまで2〜5年空ける。
◇アブラナ科も長年連作すると根こぶ病が発生しやすいので、他の作物と輪作するようにする。
◇どこの畑に何を植えたか記録し、連作にならないように注意する。

2 物理的防除
 物理的に病害虫の侵入を阻止したり、熱や光を利用する方法。
【具体例】
◇手で捕まえて駆除する(捕殺)
 小面積栽培の場合、ヨトウムシ類など比較的大型の害虫に対しては効果的。
 手で捕まえにくい微小な害虫は、枝や葉ごと取り除く。
◇ハウスの出入口や換気口にネットを設置して害虫の侵入を阻止する。
害虫の種類によって、効果的な目合いが異なる。ヨトウガ等(目合4mm)、コナジラミ類(目合0.4mm)
◇夜間に黄色灯を点灯することで、ヤガ類の飛来を減らす。
 果樹の吸汁ヤガ類、ヨトウムシ類、オオタバコガなどに有効
 きくなどでは夜間が明るいと開花しないなどの問題があるので要注意
◇作付けしない期間(主に夏期)にハウスを閉め切って、土壌にいる病原菌を熱で殺す。
◇摂氏60〜65度の温湯を使った水稲の種子消毒

3 生物的防除
 害虫を捕食する天敵や、寄生蜂、病害の拮抗菌などを利用して防除する方法。
 市販されている生物農薬を利用する場合と、ほ場周辺に存在している天敵(土着天敵)を利用する方法がある。

【市販されている生物農薬の例】
◇BT剤(デルフィン顆粒水和剤やゼンターリ顆粒水和剤など多数)
 ガの幼虫に感染する菌や、菌の作った毒素を使った薬剤。
◇スパイカル
 ハダニを食べるミヤコカブリダニを使った資材
◇スワルスキー
 アザミウマ類、タバココナジラミ類、チャノホコリダニなどを食べるスワルスキーカブリダニを使った資材
◇アフィパール
 アブラムシに寄生するアブラバチを使った資材
◇バイオリサ・カミキリ
 カミキリムシに寄生する菌を使った資材
◇フェロモンディスペンサー (コナガコンやヨトウコンなど)
 害虫の交尾を邪魔して産卵させないようにする。
◇バイオキーパー水和剤、
 キャベツなどの軟腐病に対する拮抗菌を使った薬剤
◇ボトキラー水和剤 
 野菜類の灰色かび病やうどんこ病などに対する拮抗菌を使った資材
◇タフパール
 野菜類のうどんこ病、トマトの葉かび病に対する拮抗菌を使った資材
 
【生物農薬についての注意事項】
◇農薬の一種なので、使用時には登録内容を守ること。
◇防除できる害虫や病害の範囲が狭いものもある。
(例)BT剤は、ガの幼虫に効果があるが、アブラムシには効果がない。
◇カブリダニや寄生蜂を使った資材は、保存ができないものが多く、入手後ただちに使用する必要がある。取扱業者も少なく、入手が難しいものもある。
◇予防的な使用で効果が期待できるものが多い。
◇天敵を殺さないよう、その他の農薬の使い方を気をつける必要がある。

【バンカー法】
◇農作物のそばに、天敵の住処となる植物を植え、その天敵を利用して害虫駆除を行う方法。
◇泉州地域では、水なす畑の周囲に牧草のソルゴを植え、ハナカメムシを増やすことでアザミウマを防除する「ソルゴ囲い込み栽培」で、効果をあげている。
◇メールサービスでも情報提供している。

4 化学的防除
 生物農薬以外の農薬(化学農薬)を使った防除方法。
【農薬を使用する際の注意(法律関係)】
◇農薬を製造・輸入する際には登録を受けなければならない。
(登録の際には、効果や安全性等に関する詳細な試験を行う必要がある)
(登録農薬にはラベルに「農林水産省登録第○○号」という標記が入っている)
◇無登録農薬の使用禁止。
◇特定農薬(特定防除資材)として、食酢や重曹を使って病害を防除することができる。
◇農薬散布の前には、必ずラベルをよく読んで、この内容を厳守する。
◇最近はインターネットなどで容易に外国の商品を購入できるが、国内で登録されていない外国製の農薬は国内で使用することはできない。
◇「農薬ではない」が「病害虫に効果がある」などと宣伝されていた商品から、農薬に相当する成分が検出され問題になったこともある。

【農薬の使用基準】
◇農薬散布の前には、必ずラベルをよく読んで、この内容を厳守する。
◇適用農作物を守る
 農薬ごとに使用できる作物が定められている。
(例)キャベツで使える農薬が、はくさいで使えるとは限らない。
◇希釈倍率または面積あたり使用量を守る
 乳剤や水和剤などは希釈倍率が決まっている。
 粒剤や粉剤は、単位面積あたりの使用量が決められている。
◇使用時期を守る
 多くの農薬が「収穫○日前まで」などと定められている。
 「収穫前日まで」となっている場合は、収穫24時間前までに使用する。
◇農薬の使用した場合は、記録をつける。
 農薬を散布する場合は、回数制限を越えないよう、記録をよく確認する。

【抵抗性・交差耐性】
◇同一の農薬を使い続けることで、その農薬が効きにくい病害虫だけが生き残り、農薬の効果が低くなることがある。
◇剤名が異なっても、同じ有効成分を含む農薬もあるので注意が必要である。
◇一つの剤に抵抗性をもった病害虫が、同じ系統の他の農薬に対しても抵抗性を示す場合を「交差耐性」という。
(例)ダニトロンが効かないハダニは、サンマイトやピラニカも効きにくい。
◇抵抗性の発達を防ぐため、1種類の薬剤を連続して使用するのではなく、複数の薬剤をローテーション(輪番)で使用する方がよい。
◇異なる系統の薬剤をローテーションさせる。

【リサージェンス】
◇農薬を散布することで、かえって病害虫が増えてしまう現象。
(例)アディオン乳剤など合成ピレスロイド系の殺虫剤は、ハダニには効果がなく、ハダニの天敵であるクモやカブリダニを殺してしまう。
 その結果、薬剤散布後にハダニが大発生することがある。

5 総合的病害虫・雑草管理(IPM)
 耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除を適切に組み合わせて、当該作物の効率的な病害虫や雑草を管理する技術。
 被害額と防除にかかる費用・労力も勘案して、効果的な防除を考える。
 耕種的防除、物理的防除、生物的防除だけでは、充分な防除効果を上げられない場合も多い。
 化学的防除は、効果的で即効的ではあるが、労力的な負担も大きく、抵抗性の発達などの問題がある。 

トップに戻る