III 農薬適正使用について

 

農薬の安全性については、農林水産省、厚生労働省、環境省及び食品安全委員会が連携し、それぞれでリスク管理・評価を行っている。厚生労働省では、ADI1日許容摂取量)等を考慮し、昭和43年以来、食品衛生法第13条に基づき農薬残留基準を定め、これを受けて農林水産省が農薬使用基準を定めているほか、環境省は、農薬取締法第4条に基づき登録保留基準を定めている。

農薬の登録に際しては、これらの基準に基づき農薬の種類ごとにそれぞれ適用対象作物、使用方法、使用時期及び使用回数等(以下、「農薬使用基準」という。)が定められ、その他使用上の注意事項などとともに、農薬のラベル又は説明書に表示されている。

農薬使用基準については、平成15310日に改正施行された農薬取締法の規定により、遵守することが義務づけられている。

一方、食品衛生法に基づく農薬残留の規制において、平成18529日からポジティブリスト制度(一定量を超えた農薬が残留する食品の流通・販売などを原則禁止する制度)が施行されており、対象作物のみならず周辺の食用作物への飛散防止を確実に行う必要がある。

また、ヒトがある物質を24時間又はそれより短時間経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推定される急性参照用量(ARfD)に基づく短期暴露評価を考慮した作物残留基準値が、順次設定される。

 

農薬の使用に当たっては、農畜産物への残留や周辺環境への影響等を未然に防止するため、次の事項を遵守し、適正使用に努めるものとする。

 

1 安全使用について

(1) 散布前の注意

ア 使用する農薬のラベル(説明書)を必ず読むこと。

イ 散布作業に必要なマスク・手袋・帽子・メガネ・長靴・長袖シャツ・長ズボン・防除衣などをあらかじめ整えておくこと。

ウ 使用器具を点検しておくこと。また、ハウスなどの施設内でくん煙、くん蒸などを行う場合は、ガス漏れがないよう施設を細部にわたり点検すること。

エ 健康に留意し、体調の悪い場合は散布作業を避けること。

○ 睡眠不足などで疲労している人

○ 体力、特に肝機能が衰えている人

○ 特異体質の人(アレルギー体質、かぶれやすい人)

○ 妊娠・生理中の人

○ 手足などに外傷がある人

 


(2) 薬剤調製・散布時の注意

ア 慣れに対する油断は禁物であり、粗雑な取扱いは慎むこと。

イ 服装は露出部分をなるべく少なくするようにし、また防水加工を施したものを着用することが望ましい。しかし、必要以上の装備は、作業能率を低下させるばかりでなく、かえって体力を消耗するので、作業内容により最もふさわしいものとすること。

ウ 風向きを考え、身体は常に風上になる状態で、風下から逐次作業を進め、薬液(粉)を直接浴びないようにするとともに、周辺の食用農作物等への農薬の飛散防止に配慮すること。

エ 作業は、日中の暑い時を避け、朝夕の涼しい時間帯に行うこと。日中の散布は体力の消耗が激しいばかりでなく、作物にとっても薬害を出しやすい。

オ 作業中及び休憩時は喫煙、飲食をしない。やむを得ないときは、農薬が付着した手や顔をよく洗い、うがいをしてきれいにしてからにすること。

カ 薬液が皮膚に付着したり、浴びた場合は、石けん水で十分洗い流すこと。

キ 作業中に気分が悪くなった場合、直ちに作業を中止し、涼しい日陰で体を横にして休むこと。症状が回復しない場合は直ちに医師の診断を受けること。

(3) 散布後の注意

ア 作業終了後は、使用した容器、器具をよく洗っておくこと。特に、次回、別の作物に使う場合は、予期せぬ農薬の誤散布・残留につながるので留意すること。

イ 開封後の残りの薬剤は、密封後子供の手の届かない冷暗所に施錠保管すること。

ウ 手足をよく洗い、衣服は下着まで取り替え、翌日そのまま着用しないこと。

エ 作業後及びその晩の飲酒、夜ふかしは避けること。

オ 気分が悪くなれば医師の診断を受けること。また、受診の際には、使用農薬名を控えて、申し出ること。

 

2 農薬使用基準の遵守について

農薬残留基準の改正等に伴い、農薬使用基準は順次変更されるので、農薬使用に当たってはラベルの内容を確認することはもとより、最新の農薬の登録内容を確認すること

(下記の情報を参照)。

農林水産省 農薬登録情報提供システム

https://pesticide.maff.go.jp/

大阪府環境農林水産部農政室推進課病害虫防除グループ

http://www.jppn.ne.jp/osaka/index.html

 

3 周辺環境等への配慮について

(1)魚介類・水系等への配慮

ア 河川等の公共用水域を汚染せず、また魚類等に影響のないように、散布前に周辺環境や気象状況等を把握しておくこと。

イ 必要量以上に薬液を作りすぎないよう留意するが、やむを得ず、散布液が残ったときは、散布むらの補正に使用するなどして、薬液を使いきること。

ウ 水田において除草剤、殺虫剤、殺菌剤等を使用する際には、ラベルに表示されている止水期間を必ず守ること。また、降雨等によるオーバーフローに注意すること。

(2)適正な廃棄物処理

使用済みの容器、ビン、廃農薬等は、廃棄物処理業者等に依頼するなどして法令を遵守して適正に処分すること。

(3)住宅地周辺の農地における病害虫防除に当たっての遵守事項

住宅地内及び住宅地に近接した農地(市民農園や家庭菜園を含む)において栽培される農作物の病害虫防除に当たっては、次の事項を遵守すること。(住宅地等における農薬使用について 平成25426日農林水産省消費・安全局長、環境省水・大気環境局長通知より抜粋)

ア 病害虫に強い作物や品種の栽培、病害虫の発生しにくい適切な土づくりや施肥の実施、人手による害虫の捕殺、防虫網の設置、機械除草等の物理的防除の活用等により、農薬使用の回数及び量を削減すること。

イ 農薬を使用する場合には、農薬取締法に基づいて登録された、当該農作物に適用のある農薬を、ラベルに記載されている使用方法(使用回数、使用量、使用濃度等)及び使用上の注意事項を守って使用すること。

ウ 粒剤、微粒剤等の飛散が少ない形状の農薬を使用するか、液体の形状で散布する農薬にあっては、飛散低減ノズルの使用に努めること。

エ 農薬散布は、無風又は風が弱いときに行うなど、近隣に影響が少ない天候の日や時間帯を選び、風向き、ノズルの向き等に注意して行うこと。

オ 農薬の散布に当たっては、事前に周辺住民に対して、農薬使用の目的、散布日時、使用農薬の種類及び農薬使用者等の連絡先を十分な時間的余裕をもって幅広く周知すること。その際、過去の相談等により、近辺に化学物質に敏感な人が居住していることを把握している場合には、十分配慮すること。また、農薬散布区域の近隣に学校、通学路等がある場合には、万が一にも子どもが農薬を浴びることのないよう散布の時間帯に最大限配慮するとともに、当該学校や子どもの保護者等への周知を図ること。

カ 農薬を使用した年月日、場所及び対象農作物、使用した農薬の種類又は名称並びに使用した農薬の単位面積当たりの使用量又は希釈倍数を記録し、一定期間保管すること。

キ 農薬の散布後に、周辺住民等から体調不良等の相談があった場合には、農薬中毒の症状に詳しい病院又は公益財団法人日本中毒情報センターの相談窓口等を紹介すること。

ク 以上の事項の実施に当たっては、都道府県等の防除関係者や農業者向けの「総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針」(平成17930日農林水産省消費・安全局植物防疫課)や、農薬の飛散が生じるメカニズムやその低減に有効な技術をとりまとめた「農薬飛散対策技術マニュアル」(平成223月農林水産省消費・安全局植物防疫課)も参考とすること。

 

 

4 農薬の現地混用について

農薬を現地で混用する場合は、以下の点に注意すること。

(1)農薬に他の農薬との混用に関する注意事項が表示されている場合は、それを遵守すること。

(2)生産者団体が発行している「農薬混用事例集」等を必要に応じて参考とし、これまでに知見がない農薬の組合せで現地混用を行うことは避けること。特に有機リン系農薬同士の混用は、混用による相加的な作用を示唆する知見があることから、これを厳に控えること。

(3)混合剤の開発及び登録の推進によりむやみな現地混用を防止するため、同時に施用する必要性が高い農薬の組合せに関する情報を府に提供するよう努めること。

 

5 農薬の適正な保管管理について

(1)農薬の保管は子供の手の届かない冷暗所で常に施錠すること。

(2)農薬を他の容器へ移し替えないこと。

(3)必要な時に必要な量だけを購入し、買い置きしないこと。

(4)農薬の保管状況を帳簿等で常時チェックし、盗難、紛失があった場合は、速やかに警察に届け出ること。

 

6 農薬使用に係る帳簿の記載について

農薬を使用した年月日、場所及び対象作物、使用した農薬の種類又は名称並びに使用した農薬の単位面積当たりの使用量又は希釈倍率について記帳し、一定期間保管すること。

 

7 農薬の目的外使用の禁止について

農薬の目的外使用による事件や事故が、近年でも全国各地で発生している。農薬に対する不信感を招かないため、目的外の使用は絶対に行わないこと。

 

8 販売・使用禁止農薬および使用自粛農薬について

販売・使用禁止農薬については、販売も使用もしてはならない。平成243月に、ベンゾエピン又はエンドスルファンを含む農薬(商品名:マリックス等)が新たに販売・使用禁止農薬になったので注意すること。手持ちに在庫がある場合は、メーカーが回収を行っているので、使用せずに直ちに買い求めの販売店等に相談すること。

特定毒物農薬のりん化アルミニウムくん蒸剤(商品名:ホストキシン等)、水質汚濁性農薬のCAT除草剤(商品名:シマジン等)及びEPN剤は使用を自粛すること。

 

 

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