農薬用語等の説明(殺虫剤編)
 
○リサージェンス(誘導多発生:resurgence)とは?
 害虫防除を行ったにもかかわらず、後の世代が防除を行わなかった圃場よりも、その害虫や他の害虫の個体数や被害が多くなることをいいます。
 この原因は害虫防除に使用した殺虫剤により天敵が減少したり、生き残った害虫の産卵数が増加したり、生き残った害虫の死亡率が低下したり、圃場の害虫の分布状態の均等化が起こったり、作物の収容力の増加が起こるなど各種の要因があげられるが現在のところ明確な説明は出来ていません。 
 近年では、合成ピレスロイド剤が天敵類に有害に作用して、ハダニ、カイガラムシなどが増加する場合があることも指摘されています。
 
○殺虫剤抵抗性(insecticide resistance)とは?
 殺虫剤で害虫を防除しつづけると害虫がその殺虫剤に強くなり、抵抗性が発達します。世界保健機関(WHO)では「殺虫剤に対する抵抗性とは、昆虫の正常な集団の大多数を殺す薬量に対してたえる能力がその系統に発達したこと」と定義しています。
 すなわち昆虫の集団の中に殺虫剤の使用とは無関係に強い個体が存在しており、これは殺虫剤の使用後も生き残り子孫を残し、集団として殺虫剤に強くなるという、前適応現象であるとされています。
 農業害虫では、1914年カリフォルニアの柑橘害虫のナシマルカイガラムシが石灰イオウ合剤に対して抵抗性が見られたことが最初です。
 
○昆虫の薬剤抵抗性の発達
 殺虫剤に対する抵抗性の発達とは、ある昆虫集団の殺虫剤に対する感受性が、世代の経過とともに低下し、その集団内に殺虫剤に触れても死なない個体が増加することです。この感受性の低下は世代を経るのに従って生ずるのであって、同一個体が薬剤に馴れてだんだん感受性を低下させることではありません。
 殺虫剤抵抗性個体群の出現は、殺虫剤の多様・連用による淘汰の結果であるため、1世代期間が短く(年間発生回数が多く)、かつ、移動性が低い害虫では、短期間で高度の抵抗性が発達することが多くなります。
 
○昆虫の薬剤抵抗性が発達する機構
 抵抗性が発達する機構としては次の二通りの考え方があります。
 @後適応(postadaptation)
  殺虫剤の化学物質が遺伝子に突然変異を起させて薬剤抵抗性の遺伝子ができたとするもの。 
 A前適応(preadaptation)
  ある化学物質に対して抵抗性を示す遺伝子が以前からその集団にごく小さな頻度で存在しており、殺虫剤はその遺伝子を選抜する働きをするとするもの。
 
 殺虫剤は一般に突然変異誘起性を持たないことが確かめられているので後適応とは考えにくく、現在では前適応によるものとの考えが大勢を占めています。
 
○交さ抵抗性(cross resistance)とは?
 同一殺虫剤で昆虫を累代淘汰したとき、他の殺虫剤にも抵抗性が発達してくるような現象を言います。
 コナガでは、ピレスロイド剤抵抗性の発達初期から、ほとんどすべてのピレスロイド剤に高い交さ抵抗性を示しました。また、この場合、一度抵抗性個体群が確立されると長期間にわたって高い抵抗性が維持されます。
 
○複合抵抗性(multiple resistance)とは?
 2種以上の殺虫剤で累代淘汰したとき、これらの殺虫剤に共に抵抗性が発達してくる現象を言います。
 コナガでは、DDVPをはじめ、各種の有機リン剤抵抗性が発達し、その後合成ピレスロイド剤に対しても高度の抵抗性を持つようになりました。
 
○負相関交差抵抗性(negatively correlated cross resistance)とは?
 A薬剤に対して抵抗性が発達すると、B薬剤に対しては感受性が増大するような現象を言います。